『YATAGARASU 21』 / 愛原司
2009.10.18 02:27
※ネタバレとなりうる要素を含んでいますのでご注意ください
愛原先生の前作、『VIVA! CALCIO』の20巻を越えた、『YATAGARASU』21巻の感想です。
高円宮杯全日本ユース選手権への出場を目標に掲げ、全日本クラブユース選手権の地域大会を戦う、グランヴォーチェ城ヶ丘SC。
予選リーグを無事首位通過し、決勝トーナメントの初戦の相手となるのは、GK・藤を中心とした堅守を誇る御陵川FC。
試合は前後半を終えスコアレス。
そして延長戦。鉄壁のGK藤を相手にPK戦を戦いたくないグランヴォーチェは、必死に攻めるものの得点を奪えず、むしろ、焦りの感情が先行し、普段ではありえないようなイージーなミスを連発してしまっているような状況・・・。
21巻では、御陵川戦決着。
そして、次なる戦いへと話が進んでいきます。
※
今回も、いつも通り面白かったです。
21巻を読むにあたって注目していたのは、御陵川戦の決着をどのようにつけるのかということでした(反町のFKか、茂木の破天荒さか、まさかのPK戦で宮が大活躍かなど)。
結果、試合の決着は、シューターの心理を読むことに長けた藤の想像をはるかに超える、“シンプルな脳ミソ”の持ち主の茂木が豪快にシュートを決め、グランヴォーチェが準決勝へと駒を進めることとなりました。
藤の読みというのは、前巻に続いて読み応えがありましたし、それを何とか打ち破ろうとする森村の思考・行動、そしてなんと言っても、試合状況とか何とかはお構いなしに、とにかくシンプルに、シュートを思いっきりぶち込むことしか考えてない茂木が痛快で面白かったです!
いくら茂木でも最後はしっかりと狙ってくるはず・・・は、ありませんでしたね(笑
「なんで俺のシュートは肝心なときにバーやポストに当たりやがんだぁ」
なんてことを言っていたり、この後に出てくる緑川魁のトリッキーなフェイントを真似ようとしてこけまくって味方に迷惑かけたり(しかも、実戦でも同じことやってるんだぜ?w)など、ギャグ要因として笑わせてくれることも多いですが、茂木はストライカーとしても着実に頼もしさが増してきていますね。
破天荒ばかりでなく、普通に上手さも身につけてき始めて、少し面白みに欠ける子になってしまうかなぁと思ったこともありましたが、決してそんなことはなく、ビッグマウスなところは相変わらずですし、読者を飽きさせることなく楽しませてくれる主人公です(笑
そして、御陵川を破ったグランヴォーチェの次なる相手は、Jユースのセレクションにギリギリ落ちてしまったメンバーを多く擁し(実力的には、Jユースメンバーたちと遜色ない)、街クラブの中では圧倒的な実力を誇る夙沢サザン。
夙沢サザン戦については、22巻がメインとなっていくようなので、ポイントとなりそうな部分を簡単に。
実力派揃いの夙沢サザンの中でも、特に優れているのが、才能レベルでは森村ぐらい才能とされる緑川魁。夙沢サザンに入る前は、元Jリーグユースで主力だったけど、父がリストラにあい、自ら働くためチームをやめたとか。
話のテーマは、プロサッカー選手になって日本代表に選ばれることという魁の幼い頃の夢に、過剰な思いを乗せている魁の父(天野監督の友人でもある)との、歪んだ親子関係となってきそうです。
そして、魁と同じような境遇にあった長谷部も物語に絡んでくる気配。
天野監督が長谷部を魁のマンマーカーに指名したのは、意図的なものがあると思われます。長谷部は、夙沢編の実質的な主人公という扱いなのかもしれませんね。
※
いつもながらに、サッカーをしている動きを描く上手さが光っている愛原先生。
フェイントやキックのモーションや競り合いのシーンなど、サッカーをしている身体の動きの上手さは、サッカーマンガを書かれている漫画家さんの中でも間違いなくトップクラスだと思います。また、“見栄えのいい見せ方”というのを、良く知ってらっしゃる方なのでしょう。
今回、個人的に良かったなぁと感じたのは、夙沢サザンvsトゥットの試合で、夙沢サザンがダイレクトでパスを数本つなぎ崩していたシーンです。
相互理解がしっかりとできていて、複数の人とボールが連動して動いている、その“連動感”がすごく上手く描けていると思うんですよ。
特に、パスを出して、近くにいる味方がまたいでスルー、一人飛ばした遠くの味方がパスを受けているという描写が効いていたと思います。
プレー描写の中から、夙沢サザンというチームのレベルの高さが伝ってくるシーンだったのではないでしょうか。
言葉だけでは上手く伝わらない・・・かもしれないですが(苦笑)、この部分はきちんと記事の中で取り上げておかなければと思いました(笑
『YATAGARASU』は、サッカー描写的に素晴らしい作品だと思います。
サッカーが好きで、しっかりサッカーをしているサッカーマンガを求めている方には、絶対にと言えるぐらい読んでもらいたい作品です。
※
続く22巻では、引き続き夙沢サザン戦が描かれていきます。
前半の早い時間帯で、魁のドリブルをエリア内でファールしPKを与えてしまった長谷部。 さらには、イエローカードまでもらってしまい・・・。
試合に行方も気になりますが、緑川親子の関係、PKを与えてしまった長谷部のプレーはどうなってしまうのか(魁のようなプレーヤーにはタイトなマークをしていかないときついわけで・・・)、また、結局一度も成功しないまま試合に臨んだどころか試合でもやらかしてしまった茂木のフェイントは成功するのか・・・などといったところにも注目したいです。
例によって、この作品は単行本だけで読んでいるので先の展開は本当に知りません。
22巻の発売は、スケジュール的に来年の2月になるかと思いますが、発売を楽しみにして待っています。
■ 掲載
vol.80~vol.83
月刊少年マガジン2009年5月号~8月号
夙沢サザン戦、長谷部がPKを与えるところまで収録
タグ : YATAGARASU
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