『我らの流儀』 / 大武ユキ
2007.06.09 23:15
先日取り上げた、『我らの流儀』の電子コミック化を記念しまして、 作品の紹介記事を書いてみたいと思います。
『我らの流儀』は、月刊アフタヌーンで、1996年3月号~1997年9月号まで連載されていたもので、コミックは全3巻発売されています。
マンガとしては、一般受けはしない・・・っぽいですが、 純粋にサッカー部分が面白い(というか私好みw)ので、個人的には強くプッシュしたいサッカーマンガです!
ストーリーは、 県立でトップの学力を誇る海成高校に通う主人公・加納英之が、 東大合格と選手権の優勝を目指していくというもの。
とはいえ、加納が真に目指しているものは、自分の理想とするスタイルでもって(←これ非常に重要)、選手権の優勝であって、東大というのは、部活やってるから学業がおろそかになっていると思われるのが嫌なんだとか。
加納は、マンガの主人公っぽくないのですが、それがいいんですよね(笑
人間として"何か"が欠落していて、 自分の目指すサッカーのためなら、必要のない人間を容赦なく切り捨てる(作中にはそのエピソードそのものは描かれてない)ような自己中心的で、どこかクールで淡々としているところが、最初のうちはどうにも好きになれなかったのですが・・・
2巻以降になってくると、実はサッカーに対してすごく純粋な男で(一連の彼の行動はその純粋さゆえのものと理解できる)、徐々に人間くささを見せ始めていきます。
それで、私の方も、徐々に感情移入でき始めて、気がつけば好きになってました(笑
彼の目指すサッカーに対する感性、こだわりの部分も、具体像は2巻以降に描かれてくるので、(私自身がそうだったんですが)1巻読んで、「みんなが言うほど面白くはないような・・・」と思っても、そこで判断しないで、2巻まではとりあえず読んでみてほしいです。
サッカー部分については、 まったくといっていいほど嘘がなく、本質的なところでの面白さ、真理的なところを描こうとしているところが、私がこの作品が好きな一番の理由ですね。
この自分の感覚を、どう言葉で表現すればいいのか分からないんですが(それじゃダメじゃん)、きっとこのブログを読んで、私の言ってることに共感できる方なら、きっと理解してもらえるはず!
決して、作画的に説得力があるってタイプではないのですが、
加納たちが目指しているサッカーのスタイル、作中に垣間見える大武ユキ先生のサッカー観や思想的な部分を、感じ取りながら、読んでいくと、楽しめるんじゃないかなって思います。
ある部分では野洲スタイルのそれに通じるものがあると思う。
その他細かいところにもこだわりが感じられて、これだけ作者個人の感性が感じられる、サッカーマンガは、そう多くはないと思います。
それについては、"続きを読む"以降にもうちょっと書いてますので、そちらを読んでみてください。
個人的に好きな作品なので、今回電子コミック化されたことは、非常に喜ばしく思います。サッカーの本質的な部分での面白さを描いたサッカーマンガを求めている方には、お薦めできると思いますので、これを機に、ぜひとも読んでみてほしいな~って思います!
できることなら、大武ユキ先生のサッカーマンガをもっと読んで見たいなぁ。
サッカー部分について追記
↑の文章だけだと、何が面白いのかがいまいち伝え切れてないように思うので、私にとって、この作品のサッカー部分の何が面白いのかについて、ネタバレ要素を含めつつ、ひとつの試合を例にとって、もうちょっと突っ込んで話してみたいと思います。
2巻の後半部分に描かれている、4回戦の泉高校戦のところです。
対戦相手の泉高校は、前年度の選手選手権出場校でもある強豪高で、大武先生の過去作『サッカーボーイ』の主人公が在籍してた高校でもあります。
海成高校のサッカースタイルは、中盤がダイヤモンド型の4-4-2。 ディフェンスラインを高く設定し、中盤でガンガンプレスをかけて、ボールを奪い、つなぐサッカーで、加納を中心に多彩な攻めでゴールを狙うというもの。
それで、ゴールキーパーの土屋は、リベロキーパーで守備の要というべき存在なのですが、反対する親を押し切ることができず、試合には来てない状況で、素人同然の急造キーパーで凌いでいる。
そのあたりの土屋のエピソードについては、本編を読んでくださいと(笑
それも、ストーリーの見所のひとつですので。
で、それを踏まえての試合のシーンなのですが・・・
ただでさえ、キーパー土屋が不在で、不利な状況での試合なのにもかかわらず、味方のボランチが2枚目のイエローをもらい、退場になってしまいます。
1枚目は当たってないけど相手の巧さと後方からのタックルてのもありイエロー、2枚目は加納に故意に肘打ち喰らわせた相手選手のプレーについて主審への異議によるもの。・・・このあたり、演出が細かい(笑
そこで、加納は自らボランチに下がることで、守備を安定させて、なんとか前半を0-0で凌ぎます。
そしてハーフタイム。
自分たちのサッカーにこだわけど、1人少ない、しかも攻撃の中心の加納がボランチに下がった状況では、簡単に得点も奪えない。
そこで残り5分のところで、点を取るためにある策を立て後半へ望みます。
後半、苦しい状況が続き、シュートも打てない展開が続くが、 加納も持ち前のサッカーセンスで相手のU-17の選手にも仕事をさせず、 残り5分を迎えます。
策(といっても、交代で入ったサイドバックの選手のオーバーラップですがこの状況下の意味を考えると・・・)を実行に移し、苦しさに耐えに耐えた上でのまさに、乾坤一擲の攻撃で1点をもぎ取ります。
この展開だけでも、ドラマティックだし、ワクワクしたんですが、 しかし、それだけでは話は終わらない。
本当に苦しい状況で、死に物狂いで1点を奪い、 後半ロスタイム、主審が時計に目をやる・・・
勝てる!
そんな思いが頭によぎった瞬間。
思わぬ事態が起こります。
それは、急造キーパーが、バックパスを手でキャッチしてしまうという、 通常では絶対的にありえないミス。
その後の間接フリーキックで、同点に追いつかれてしまい、試合は延長戦に・・・。
このときの、呆然とした加納の心情は、察するに忍びない・・・。
けど、こういうミスがでてしまう。
これもまた、サッカーの真理なんだろうなぁと。
そこから、延長戦へと続くわけですが、 あまり書いてしまうと読む楽しみがなくなってしまうと思うので(決して、書くのが面倒になったわけじゃないですよ?w)、 もし、これで興味を持ってくれたなら、あとはご自身で読んでみてください。
延長も、加納が勝利のために、自分の信念を捨て、現実的な選択(タテパス1本の放り込みサッカー)をし始める彼の心理描写は、 私はすごく感情移入できるものがあると思います。
なんか結局、試合シーンをなぞっただけで、面白さに関しての具体性に欠けて しまいましたが(ごめんなさい、これも私の文章力がないからです、もっと精進します)・・・
マンガにはどうしても出てきがちな、些細な嘘や誇張というのがまったくといえるほどない、サッカーの本質性や勝負のあやとなる部分と、キャラクターの心理描写によって成り立っている、ここまでストイックなまでに深い感性が感じられる作品って、本当に希少な存在だと思います。
それが、必ずしも一般にマンガとして面白いという評価になるとは限らないんですけど、↑の本文にも同様の書きましたが、私の今までブログで書いてきた価値観に理解を示してもらえる方には、ぜひとも読んでほしい作品です。
古本屋を探しても、なかなか見つけることのできない作品なので、今回電子コミック化されて、本当によかったなって思います。
コメント
いえいえ、こちらこそ3年以上も前の記事にコメントしてくださりありがとうございます。
『我らの流儀』は、本当面白いですよね。
連載再開が待たれる『フットボールネーション』もそうですが、
大武先生の作品は、サッカーが好きな方に是非読んでもらいたいなって思わせてくれます。
ちょっと雑誌で見た記憶があって、おっ、サッカーまた描いてくれているんだ!と思っていたら、最近見ていなかったので。。。
私自身は運動苦手ですが、高校が結構サッカーが強い高校だったので、観るのは好きです。
「フットボールネーション」再開期待しましょう!
はい、元々単行本1冊分描いたら連載を休むということだったらしいです。
ですが、大武先生のツイッターなどをチラチラ見ていると、
連載再開に向けた動きはあるようなので、
まだ正式な発表はないので何とも言えないですが、
もしかすると、そう遠くないうちに『フットボールネーション』を
再び読める時が来るかもしれないですね。
私は、大武先生の描くサッカーマンガが大好きで、
物語もここからが面白くなっていくところだと思っているので、
連載が再開される時を楽しみに待つとします!
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「我らの流儀」よいですよね。
クールかつクレバーなスタイルのサッカー。憧れますねぇ。