『1/11 じゅういちぶんのいち 1』 / 中村尚儁
2010.12.08 00:20
※ネタバレとなりうる要素を含んでいる可能性がございますのでご注意ください
厳密に言うとサッカーマンガとは言い切れないかもしれないのですが、サッカーストーリーとして優れたドラマを魅せてくれる・・・『1/11 じゅういちぶんのいち』の1巻を読んだ感想です。
自分の才能に限界を感じ、
中学卒業とともにサッカーを辞めた安藤ソラ。
しかし、日本女子代表・若宮四季との出会いが、
心の奥底に眠っていた何かを衝き動かした――。
清新な筆致で描かれる、 ソラを巡る様々な人間模様――
『1/11 じゅういちぶんのいち』は、一人のサッカー選手・安藤ソラを軸に、様々な登場人物たちにスポットを当て、1話読み切り型の物語を描いていくというスタイルの作品です。
1巻では、3つの物語が掲載されていて・・・
#1では、ソラと出会いがきっかけでサッカー女子日本代表にまでなった若宮四季とのエピソードを(名目上、四季の話と紹介されてますが、ソラの物語である要素も大きい)。
#2では、両親に内緒でサッカー部のマネージャーを務めていた篠森仁菜のエピソード。
#3では、イケメンと呼ばれるようになって、泥臭くひたむきに頑張ることから目を背けるようになってしまった越川凛哉のエピソードが描かれていきます。
作品としては、スポーツとしてのサッカー描写が面白いというよりは、紹介文にもあります通り、一人のサッカー選手・安藤ソラを巡る人間ドラマを描いた物語が面白いというタイプのものです。
特に#2~#3は、まったくと言っていいほどサッカーをしていなかったりするのですが、人間ドラマを丁寧に描いていく物語の完成度は非常に高く、個人的にはものすごいレベルで気に入ってしまっています。
私個人の感覚で言うと、『さよならフットボール』のような登場人物がキラキラ輝いているさわやかで清々しい青春劇の要素と、『ANGEL VOICE』のようにひとつひとつのエピソードをじっくりと丁寧に描いていこうとする部分、この両者の良さをうまくミックスしたような面白さかなと感じています。
収録されている3つのエピソード、それぞれ素晴らしくて泣けてしまう話ばかりでどれも好きなんですけど、個人的に一番好きなのは1話のソラと四季の話ですね。
まぁ、私が何を言うよりも、ご自身で読んでもらったほうが早いかなとも思うので、まだ作品にまったく触れたことのないという方は、1巻#1のまるまる試し読みがあるのでそれをを読んでみてください。
なんかものすごく手を抜いたことをしてしまってる感があるのですが(苦笑)、いざ単行本の感想記事を書こうと言っても、あの記事で自分の思ったことは全力で書き切ってしまっているので(当時書いた作品の方向性についての予想の部分は外れてしまってますがw)、新たに書き足すようなこともないかなと(笑
もし試し読みを読んで、私と同じような印象を抱いたなら、きっと“買い”だと思います(笑
単行本が発売されて、3つのエピソードを再度読み返しましたが、やっぱり泣けました。何度読んでも泣けます。 中村先生って、本当良い物語を描ける方だなぁ。改めて、自分がこの作品のことがすごく好きであることを実感させられました。
物語はソラを軸に様々な登場人物をスポットを当てて描かれていくものですが、逆を言うとそれは、周囲の人物を描くことで作品の真の主人公であるソラのサッカー人生の欠片を見せている部分もあります。今後様々な人物の物語を積み重ねていくことによって、ソラのサッカー人生の全体像がどのように浮かび上がってくるのか、このあたりも楽しみにしていきたいです。
#3の連載が掲載されてから2週間程度で単行本化、しかも、すぐさまジャンプスクエア本誌に読み切りとして登場したりしていることからも期待の高さが窺える『1/11 じゅういちぶんのいち』。
サッカー描写がメインである作品が読みたいという方の需要を満たせるタイプの作品ではないのですが、人間ドラマを描く部分では珠玉の輝きを放っている作品だと思うので、もし興味があれば一度試し読みからでもチェックし見ていただければなと思います。
※
それと、1巻には、『1/11 じゅういちぶんのいち』本編以外にも、アフタヌーン四季賞の佳作作品となった、『エロメガネ男子×女子』も特別収録されています。
そのレンズを通して見るとその着衣のみが透けて見えるという夢のようなメガネを開発した主人公の話を描いたものなのですが、オチが面白かったです。『エロメガネ男子』と『エロメガネ女子』それぞれが合わさって2段オチのような仕様になっています。
~女子の方は、投稿用に急遽描き足したらしいのですが、むしろこれがあってこそ、相乗効果で何倍も面白くなっているなと思いました。中村先生って、こういうネタの話も描けるんですね(あ、でも、物語の構成力という意味では、らしさを発揮しているとも言えるのかな)。
あとは、『1/11 じゅういちぶんのいち』を含めたボツイラストなども掲載されていて、こちらも良かったなぁと思います。というか、ボツになったバージョンのカバーが私は欲しいです・・・。
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続く2巻では、(記事を書いてる段階では)連載されたものがすべて単行本に収められているため、この先どんな話が描かれるのかはまったく分かりません。
ただ、次もきっと素晴らしいドラマを描いてくれるということは確信しているので、2巻ではどんな人物にスポットが当てられていくのか、続きを読んでいくのが楽しみです。
ちなみに、ジャンプスクエア2011年1月号に掲載されている読み切りは、ソラがプロになった時の話で、長く2ndGK生活を送るキャラが主人公となっています。これまでよりサッカー度が高く、こちらはサッカーファンの方にお勧めしやすい仕上がりになってると思うので、よろしければ単行本と併せてチェックしてみてください。
■ 掲載
#1~#3
ジャンプSQ.19 2010年6/20号~12/19号
越川凛哉の物語まで収録
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