『ふたりサッカー』 / 倉敷保雄 あらゐけいいち
2010.10.31 22:16
厳密にはサッカーマンガというわけではないのですが(コピーの言葉を借りるなら“ステップ・アップ・サッカーよみもの”)、内容的にマンガもありますし、やっぱり何と言っても個人的にお気に入りなので(そこがとても大切だと思うんだ!)、ショートレビューみたいな感じで紹介してみたいと思います。
待望の単行本化!!
強力ツートップによつ絶妙コラボ。
すべてのサッカーファン+活字ファン+コミックファンに捧げる、
“サッカーよみもの”です!
『ふたりサッカー』とは、ヤングアニマル2008年6号(3月14日発売)より始まった、『ふたりサッカーいとをかし』という連載コラムを単行本化したものです。
内容としては、サッカーファンにはスカパーのサッカー実況などでお馴染みのクラッキーこと倉敷保雄アナのテキストと、『日常』などで知られるあらゐけいいち先生の漫画(倉敷さんのコラムと一応微妙にリンクしてます、連載初期はイラスト+コメント)で構成されています。
今回、単行本化するにあたって、ヤングアニマル増刊あいらんどで掲載された漫画の収録、さらには、単行本用に書き下ろされたものもあります。
私がこのコラムを知ってチェックし始めたのは、第19回からなのですが、その時からずっと過去のコラムも読んでみたいと願っていたので、今回の単行本化はすごく嬉しかったです。
まずは、何と言っても倉敷さんのテキストが面白いです。
倉敷さんと言えば、サッカーに関する小さな小ネタも含めた知識が豊富で、時にアニメや漫画、特撮のネタなども織り交ぜたりしながら(そのネタの引き出しの多さにはいつも感心してます)、軽妙かつユーモラス溢れる実況で楽しませてくれる方ですが、そんなクラッキー節がそのまま文章として楽しめて(他誌のコラムでもこのへんの才能は見せていますけどね)、いちクラッキーファンとしてはたまりません。
取り扱うネタは国内外、クラブに代表、時には自身の実況話など幅広く(とは言っても基本海外話が中心で、個人的にはもっとJリーグネタがあってほしかった)、連載は2008年のJリーグが始まった時のコラムから始まって今となって少々色褪せた話もありますが、そのあたりは単行本化に合わせ文章を追記してフォローしています。
そして、あらゐけいいちせんせいの漫画&挿絵も、サッカーをより親しみやすくしているのではないかと思います。
※画像クリックでamazonのページへ、ブクログに画像がなかったので・・・(笑
表紙を見ての通りのかわいらしい絵柄ながらも、独特の不条理でシュールな作風は、サッカーよみものの中でも健在です(個人的には、この連載がきっかけであらゐ先生の作品を読むようになったw)。
本の最後の方で、クラッキーとポジションチェンジして文章を書かれているところも注目です(もちろんクラッキーの挿絵もw)。あらゐ先生もクラッキーの実況がきっかけで、サッカーにのめりこむようになっていったそうですよ。
とにかく、サッカーが好き、クラッキーが好き、あらゐ先生が好き・・・
このうちの2つが当てはまるなら、楽しめる内容かなと思うので、興味あれば是非チェックしてみて下さい。
単行本の裏表紙側の帯に試し読み用のQRコードもついています。
まぁ、ぶっちゃけ本屋でコミック手に取ってQRコードを読み取るってあらぬ誤解を受けそうでやり辛いと思うのですが・・・。
(そもそもそれには本屋行かないといけないですし、ネット上で試し読みできれば良かったのに・・・)
文体がすごく親しみやすいので、サッカーにそれほど詳しくない方にも、いやむしろ、あまり詳しくはないけどサッカーに興味は持ってる方にこそオススメかも。読んでいくうちに引き込まれ、“ステップ・アップ・サッカーよみもの”の言葉通り、きっとサッカーのことがもうワンランク好きになれるはず(だと思っていたいw)。
今回は、連載40回分(ヤングアニマル2009年21号)が掲載されていています。
タイトルに巻数がついてないのがちょっと気にかかるんですが、本が売れればきっとまた発売してくれるはずなので、次はいつになるか分からないんですけど2巻の発売を楽しみに待っていたいです。
今週の連載雑感(2010年10月25日~10月31日)
2010.10.31 22:07
■ 今週の雑感リスト
- ANGEL VOICE
- LOST MAN
- コラソン ~サッカー魂~
- LIGHT WING
- T.R.A.P
- キャプテン翼 海外激闘編 EN LA LIGA
- 龍時
- 龍時
- うるとらスーパーさぶっ!!
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『GIANT KILLING 17』 / ツジトモ(原案・取材協力:綱本将也)
2010.10.30 22:18
※ネタバレとなりうる要素も含んでいますのでご注意ください
いろいろとあって、感想書くのは3巻ぶりになってしまったという・・・(苦笑
『GIANT KILLING』17巻を読んだ感想です。
内容の細かい部分については、毎週連載の感想を書いているのでそちらを読んでもらうとして、あまり気負わず気楽にサクサクとまとめてみたいと思います。
・・・
ETUは、現在夏季キャンプ中。
キャンプの2日目、港経済大学との練習試合に臨むETUですが、その練習試合は、(ETUの選手たちが)本来の自分のポジションでプレーすることができないという条件がつけられたもの。
選手たちは慣れないポジションと、弱点を的確に突いてくる“ミスターT”率いる港経大相手に苦戦を強いられます。
キャンプの目的は、あくまでチーム力の向上であり、達海の課したテーマを理解することであって、必ずしも試合への勝利は義務付けられたものではありません。・・・が、しかし、ETUの選手たちにはプロとしての意地もあります(負けたら屈辱的な写真を取られることにもなるw)。
果たして、この練習試合の行方は一体どうなっていきますか・・・といったところから17巻は始まっていきます。
※
17巻の内容は、練習時代を含めた夏季キャンプの総仕上げ、そして、リーグ戦が再開し第18節FC札幌戦の模様も描かれていきます。
単行本として17巻を読んだ感想として、一番強く思ったこと、主張しておきたいことは、読んでいてETUというサッカークラブことのがますます好きになってもっともっと応援したいって気持ちにさせられたなということですね。
17巻だけなく16巻後半から続いているものではありますが、夏季キャンプを通じて描かれたものの数々は、ETUにとっても、作品を読む自分としても、本当にいろんな意味で充実していたなと思います。
タッツミー流に言うとETUに新しいお友達が加わったり、キャラクター同士の笑えるやり取りなどジャイキリらしい明るく楽しい描写がたくさん見られたかと思ったら(ツジトモ先生の言い回しのセンスがまた絶妙w)、ベテラン選手から若い選手へアドバイスを送るといったニヤリとさせてくれる描写もあったりで・・・
それだけではありません。
達海の課したキャンプのテーマを探るため、各々がいろいろ考えて取り組んでいく中で、特にグッとさせてくれるものがあったのは、ミスターETUこと村越の描写でした。
村越というと、どうしてもこれまで悲壮感が漂いすぎるほどに、何かを自分で背負い込んでしまっていた部分があったんですけど、ついに、自分を信じ、周囲を信じて、後ろ髪引かれることなく、恐れず前へと突き進んで行く姿が見られるようになっていきます・・・!
その結果、相手の厳しいマークを受けながらもパワフルに突破していき、相手GKを手を弾くほどの豪快なミドルシュートを決めた村越のシーンは、自らを縛り付けていたものから解き放たれた、本当の意味でピッチの中で自由を得られるきっかけとなる描写という点でも(自分の中の“答え”を見つけ出すことができた!)胸を熱くさせられた場面でしたね。
こうして夏季キャンプが終わって、シーズン後半戦が始まろうとしていくわけですが、そこに向けた描写もまた良かったなと思いました。
14巻後半~16巻前半にかけて、ETUの辛く悲しい過去話が描かれてきましたが、そこから夏季キャンプのエピソードを通じてETUの現在、そして新しい未来へと向かってチームがひとつにまとまり動き出して行く・・・。
そのラストピースとなるのが、笠野さんだったんですよね。
確かにETUの暗黒時代を招いた要因の中に笠野さんの存在はかなりあると思う。けど、過去の痛みを嫌ってほど知っている笠野さんは、きっと同じ過ちは繰り返さないと思うし、達海が信じる笠野さんことを自分も信じてみたいと思うのです。
過去編のエピソードって、辛く悲しい話ですし、個人的にはあまり振り返りたくない部分もあるんですけど・・・、でもこうしてまとめて振り返ってみると、現在に戻ってきた夏季キャンプ以降の話は、そんな過去編があったからこそ効いているところがすごくあるんですよね。
過去編から夏季キャンプの話は、すべてがつながっていて、それらをまとめて読み切ることによって意味を成す。暗黒時代があるからこそ、現在の明るく楽しくあるチーム状況、新しい未来へ進もうとしていくETUの姿にさらなる強い愛情を抱いてしまう部分があるのかなと。
ま~、言葉にするとちょっと照れくさい部分もありますが・・・(苦笑
けど、とにかく、これらの一連の話の流れは、マンガの世界ではありますが、ETUというサッカークラブに対する感情移入度をより高めてくれた、自分にとってはそんなエピソードでした。
そして、17巻では、リーグ後半戦が始まり、18節のFC札幌戦の様子も描かれていきます。
そこで見せてくれたのは、キャンプを通じてまたひとつ成長したETUの選手たちの姿でした。
怪我の選手(杉江)もいましたが、シーズン前半戦終了時のレギュラーメンバーから3人を入れ替え、今季試合経験のない(限りなく少ない)選手を加えてFC札幌戦に臨む達海。
そんな達海の采配に対して、不快感を示す札幌の監督、懸念を示すETUの番記者・・・。彼らにそれ見たことかと言わせたいかのように、相手のシュートのコースが変わって不運な形で先制点を奪われるETU。それは、リーグ開幕戦の大敗を思い起こさせるような展開でもありますが・・・
現在のETUは、あの時とは違うのです!
先制されても下を向くことなく前向きに戦い試合の流れを引き寄せていく・・・、ここからの展開は、読んでいてスカッとさせてくれて、テンションが上がってきます。
ベンチ外の選手たちはチームの勝利のためボードを掲げピッチの選手たちにメッセージを送り(今回だけは、特別にベンチ外も含めて選手全員を帯同させる大盤振る舞い)、試合序盤こそ不安定なプレーを見せていたけど、シーズン前半戦ピッチ上で悔しい思いをした亀井が強気のプレーで奮闘・・・
そしてここでも私の胸を一番熱くさせてくれたのは、ミスターETU・村越茂幸でした。
亀井のインターセプトから王子へとつなぎ、“余裕を持って”状況を見極めていた王子は、仲間たちを信じ切って自らのポジションを空けスルリと上がってきた村越(これも先程も書いた通りキャンプの成果のひとつ!)にラストパスを送り・・・
ズッドーンと同点となるミドルシュートを決める!
ゴール後、その場でただ無言で拳を突き上げる姿も含めて、この村越のゴールシーンは最高でした。 もう、1巻のうちに2つもコシさんの豪快ミドルが見られて、それだけでも17巻は大満足といったものです。
・・・ということで、17巻も面白かったです。
久々に全編に渡って心から楽しんで読んでいける、現在のジャイキリらしさが存分に堪能できる巻だったと思います。
※
明るく楽しく笑える展開は本編ばかりはありません・・・
ということで、単行本描き下ろしカットの部分でも存分に楽しませてもらいました。
個人的には、『中井くん物語』がツボでした。
1~3まであったのは初めての試みでしたし、見た目のギャップに反して生意気キャラだった中井(いづれはETUへ加入を!)のいきさつを描いた話に笑ってしまいました。漫画のネタだからこそ、許される部分もありますけどね。
あとは、子供たちに見られたくない姿を見られてしまった松ちゃんとかも・・・ね?(笑
他には、冒頭のETUグッズボツ企画シリーズも面白かったです。
こういうのを見てると、本当ツジトモ先生のネタの引き出しの多さに脱帽させられますね。18巻では何を見せてくれるのかまた楽しみです。
毎回恒例の初版限定ステッカーは、今回は1巻と同じデザインのETUステッカーなので画像は載せません。
※
さて、続く18巻では、FC札幌戦の続きが描かれていきます。
果たして、村越のゴールで同点に追いついたETUは、その勢いで逆転することができるのでしょうか。
17巻では、いろいろと充実したものを見せてくれましたが、18巻でもそれに負けないぐらい心揺さぶってくれる展開が待ち受けているので、単行本での描き下ろし部分も含めてまた発売が楽しみです。
■ 掲載
#158~#167
週刊モーニング2010年19号~29号
ETUvs札幌、村越が同点ミドルを決めるところまで収録
タグ : GIANT-KILLING
今週の『GIANT KILLING』#185
2010.10.28 22:55
最新単行本17巻、ムック本extra vol.03、アニメDVD4巻も現在発売中!
17巻の感想は、今書いてる途中で、明日かあさってぐらいにはアップできるつもりでいます(そのへんは、例のよって話半分ぐらいでw)。飛ばしてしまった15~16巻については、どうしようかまた思案中です。
タグ : GIANT-KILLING
今週の連載雑感(2010年10月18日~10月24日)
2010.10.24 19:59
■ 今週の雑感リスト
- ANGEL VOICE
- LOST MAN
- LIGHT WING
- キャプテン翼 海外激闘編 EN LA LIGA
- うるとらスーパーさぶっ!!
今週の『GIANT KILLING』#184
2010.10.21 23:23
いよいよ明日、ジャイキリ単行本17巻&ムック本extra vol.03の発売となります!
こうして、表紙をふたつ並べると、実にいいですなー。
なお、この同時発売を記念して、明日、10月22日(金)17時~21時、SHIBUYA TSUTAYA 7Fコミックフロアにて、パッカくんの写真撮影会が行われるそうです。
この件に関しての詳細は、SHIBUYA TSUTAYAさんのブログの【予告】10月22日ジャイアントキリング最新刊発売!!…そしてアイツが来るッ!!の記事をご覧になってみて下さい。
お店には、ジャイキリグッズも置いてあるそうなので、行ける方はパッカくんに会いに行ってみてはいかがでしょうか。
(参考リンク:『GIANT KILLING』最新⑰巻と『extra Vol.03』、2冊同時発売祭りにパッカくんも緊急参戦!?)
(参考リンク:ジャイキリムックVol.03をちょっと覗いてみませんか? Web立ち読み企画スタート!)
(参考リンク:ジャイキリムックVol.03発売直前! 皆勤賞の岩本ナオさんをご紹介します。)
それと最後に、ジャイキリの担当編集者さんがツイッターを始められていました。
まだ今日はじめたばかりのようで、まだつぶやきの数は少ないのですが、担当編集者さんの直接の言葉を聞けるってのは、ファンにとってはすごく大きいことだと思います。
特にツイッターのアカウント持っていなくても自由に見れますので(非公開にされない限りは)、ツイッターやってる人もそうでない人もジャイキリファンの方は一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
タグ : GIANT-KILLING
『ANGEL VOICE 18』 / 古谷野孝雄
2010.10.21 00:34
※ネタバレとなりうる要素を含んでいますのでご注意ください
少し遅くなってしまいましたが、『ANGEL VOICE』18巻の感想です。
新人大会の3回戦に挑む市蘭サッカー部。
その対戦相手とは、冬の選手権の県予選で一度勝利したことのある美浜学園幕張。
しかし、今回は、前回対戦した時と違った布陣で戦う美幕に市蘭は後手を踏み、前半のうちから2点のリードを許してしまう展開に。
そこでまずは1点を返すため、黒木は、尾上と百瀬のポジションを入れ替え、美幕ディフェンスが戸惑う一瞬の隙を狙わせるという策に出ますが・・・、果たしてこの作戦は功を奏すのでしょうか?
※
18巻では、美幕戦の決着、そして、その試合結果やチームの戦いぶりがチームの崩壊危機へと招く・・・といった展開が描かれていきます。
今回は、大きく分けると美幕戦の試合描写と敗れた試合後の描写の2つになるのですが、その中でも語りたいこと、見どころがいろいろありすぎる・・・。まぁ、とにかく、今回も登場人物それぞれの想いを濃密に見せてくれていると思います。敗れるシチュエーションがこれまでと違うタイプのものなためか、特に人物の心理描写の深さが感じられたような気がします。
まず美浜戦の描写で言えば、17巻からの続きで、ポジションチェンジで相手守備陣のギャップを作り、そのたったワンチャンスを生かして1点を返すゴールシーンがひとつと、1点を奪った後さらに畳み掛けるように尾上のポジションを彼の心から望んだ左サイドへと移行させ同点を狙いに行く描写、このふたつが大きな見どころとなっていきます。
市蘭1点目のシーンは、黒木の作戦通りに美幕守備陣の混乱を誘うことに成功し、そのワンチャンスをしっかり生かしてしっかりゴールを決めた、これが素晴らしかったと思います。
美幕の守備が崩れるところを丹念に描いたサッカー描写も良いですし、何と言っても、チャンスにワンテンポ遅れた状態でゴール前に飛び込んでくる成田が・・・
「こっ…ここはっ… オレだろ!!」
と、持ち前の驚異的なスピードを生かしまさかのタイミングで、ゴール前に入り込んだ乾を狙ったラストパスをかっさらうように目の前に飛び込みゴールを奪うシーンは、胸を熱くさせてくれるものがありました!
GKとの1対1はいとも簡単に外してしまいけれど、こういうギリギリの飛び込みで奪うゴールには強い・・・、いかにも成田らしいゴールが良かったですね(ただ、この後の展開を思うとアレなのですが・・・)。
そして、同点ゴールを狙いに行くシーン。
ここでは、複数の人物の思惑が絡んでいく描写が、大きなドラマを見せていくことになります。
1点を奪った後、黒木はすぐさま、さらなるポジションチェンジを命じ、ついに尾上は念願かなって左サイドでプレーすることを手に入れます。
尾上が左サイドでプレーを望む理由は、成田のアシスト役ではなく自分でゴールを決めるため。
左サイドにポジションを移した尾上はさっそく特にのミドルシュートを放ちリズムをつかもうとしていきますが、しかし、いくら精度の高いミドルシュートを放てる尾上とはいえ、よりゴールに近い位置でボールを受けられるポジションにいる成田の方が得点の確率が高いと考えるのは道理。成田ばかりか、乾にまでそういう状況ならば成田に渡せと言われ、悔しさを滲ませる尾上。
そうしているうちに、運命の時は訪れます。
両チーム決定機を作れないまま試合は経過し、後半45分近くになった時間帯。
勝利を意識した美幕が、リスクを負わず、時間を使うためにボールを回し始めたところを百瀬がパスカット。
しかし、この時、百瀬の右足には激痛が!
それでも、百瀬は、無理をするなと言う黒木の警告を無視して、ボールを前へと運んでいきます。
なんのために百瀬はボールを前へと進めていくのか?
それはもちろん、チームの勝利のため。
苦痛に顔をゆがめながらも、ボールを前をと運び続ける百瀬は、前方の尾上へとパスを通します。
「勝つぞ!!」
この時の、バランス崩し倒れながらも最後の気力を振り絞り、強烈な勝利へのメッセージをパスを送る百瀬の執念の描写には、本当に胸を熱くさせられます。
そんな百瀬の想いが託されたボールを受け取った尾上は、シュートコースを相手に消されているものの、彼が手に入れていたもうひとつの武器、“クライフターン”を使って相手をかわし、左サイドから中央へと切れ込んで行きます。
そこで乾が相手のマークをひきつけてサイドに流れたことにより中央が空き、尾上のシュートコースができ始めるのですが・・・
そんなところに見えたのは、ゴール前で“フリー”でいる成田の姿でした。
ここで尾上は葛藤します。
点を取れるのは、成田や乾だけじゃない。
自分だって、ミドルシュートを磨き続けて精度を上げてきた。
それもそもシュートを打つために、左サイドでプレーすることを望み続けてきたんだ。
ゴールに近い成田に渡す方が、ミドルシュートを打つよりも精度が高い。
そんな先程の乾の言葉が頭をよぎるも、それでもそんな雑念を振り払うかのように・・・
「オレが決める!!
オレが決める!!
オレが決める…」
自分のエゴイスティックな意志を貫き通そうとする尾上。
けど、そんな尾上の脳内に、もうひとつの言葉が響き渡ります。
「勝つぞ!!」
・・・それは、チームの勝利のために、足を痛めながらもボールを前に運び続け、最後は苦痛のあまり鬼のような形相になりながらも自分にパスを送った、百瀬の強いメッセージでした。
この百瀬の言葉には尾上の意志もぐらつき、自らシュートを打つか、ラストパスを送り成田にシュートを託すのか。
「あああぁ――――!!!
あああぁ――――っ!!!」
究極の選択を迫られ、強く葛藤を見せますが・・・
「勝つ……ためだ!!」
最終的には、チームの勝利のため、ゴールの確率の方、つまりは成田へのパスを選択した尾上。
このあたりのシーンを描くのにまるまる1話を使っているのですが、この百瀬と尾上の心理描写を描いた回は、非常に見応えのあるものでした。これは、実際に、作画とテキスト、彼ら心情を汲み取りながら読んでいくほどに面白さが感じられるもので、とにかく読んでもらうしかないってところでもありますね。彼らの気迫を感じることができはず。
まぁ、これだけボールに思いが込められても、ボールを受ける側にその意識(覚悟と言うべき?)が足りなければ、意図も簡単にシュートを外してしまう・・・。
このあっさりと外れていくシュートシーンも、古谷野先生の作画の空白感とこれによって試合に敗れたという事実も手伝って、読んでいて呆然としてしまいました。こういう描写もまた、読む者の感情を動かすと言う意味では、見どころであると思います・・・。
※
そして、ここからが試合後の描写となってくわけですが・・・
この敗戦が、次なる市蘭サッカー部のドラマへとつながっていくのです。
「取れる点を取らなかったことで――
負ける試合もある」
これは他のスポーツにも言えることでもありますが、1点の重みの大きいサッカーにとっては、特にこの乾の言葉はひとつの真理だと思います。
そうして、市蘭サッカー部は美幕に敗れました・・・。
強く葛藤したうえでシュートを成田に託した尾上はいきなり殴りかかるほどの怒りを見せ、(他校よりも伸びしろが大きくどこよりも成長したはずの自分たちが)一度勝利した相手に敗れた事実を受け止め切れない脇坂、乾の個人技なら何とかできたのでは・・・と、他力本願な姿勢を見せる二宮&万代・・・。
しかし、そんな彼らの行動に、乾のフラストレーションは限界を超え・・・
「これ以上ストレスが溜まるようなことを言ってんじゃねえよ
おめえら全員…… 物足りねえ」
チームの崩壊危機を招く一言を発してしまいます。
もちろん、これには乾なりの純然たる想いがあるからなわけなのですが、そのあたりの描写もこの作品らしいニヤリをさせてくれます。
ただ、このエピソードの解決は、18巻の最後の方から描かれ始めますが、19巻にも続いていくところなので、それはまた次の機会にでも。
しかし、また別な意味で、市蘭サッカー部崩壊の危機となるエピソードがあります。
そこでは、試合に敗れて殺気立つ市蘭メンバーたちが一触即発でケンカを起こしてしまいそうになりますが、なぜかその場に偶然居合わせた尋猶の強さ(カリスマ)に頼るのではなく・・・
「道を空けなさい!!」
市蘭サッカー部を守るために取った麻衣の勇気ある行動。
そして、怖いという気持ちを押し切ってまで、そんな行動に走らせた麻衣の市蘭サッカー部に対する想いが、その場を動かしていく・・・という展開に心揺さぶられるものがありました。勇気を振り絞った後に、力が抜けて、思わず涙を流してしまう描写も含めて、ここもじっくりと読んでほしいポイントです。
あとは、美幕戦で足を痛めたにもかかわらず、勝利への執念を見せていた百瀬が疲労骨折していたという事実。ギャグ描写もありましたが、この時ばかりは、報告する百瀬の落ち込んだ表情から読み取れるその心情を察すると悲しさがこみ上げてくるものがありました。今後の布石となる麻衣の気になる描写も含めて・・・。
ここまで延々と書いてきましたが、つまりは、18巻を迎えた『ANGEL VOICE』もいつもと変わらず、時に効果的なギャグ描写を織り交ぜながらもじっくりと読ませるストーリーで私たちの心を揺さぶってくれる。
ブレることなく読ませる物語を提供し続けてくれる古谷野先生の才能は、今回も本当半端ないなということですね。
18巻は、全体的に前向きな話が描かれた巻とは言えないんですけど、いや、そういう巻だからこそ、個々のキャラクターの心情というのが心に響いた部分もあったような気がします。
やっぱり、『ANGEL VOICE』は面白いです。
18巻まで来ると、なかなか未読の方には簡単に勧めにくくなってきますが、今連載中の作品の中でも、丁寧に読ませてくれる物語という点では間違いなくトップクラスですし、サッカー描写も躍動感という部分では劣りますがこれも地味ながらも丁寧に描いています。
着実に評価はされてきているのだけれど、個人的には本当に面白いと思っているので、もっともっと多くの人に読まれてほしいなと願ってます。なので、未読の方は、是非とも一度チェックしてみていただければなぁと思います。
※
さて、続く19巻ですが、先程書いた乾の一言が発端となった話の顛末がどうなっていくのか。そして、予告にもある通り、すべてが前向きな話というわけにはいかないのですが、『ANGEL VOICE』らしい良い話も見せてくれるので、連載も読んでますが単行本としてまたじっくりと読み返したいなと思っています。
□ 掲載
第151話~第159話
週刊少年チャンピオン2010年27号~35号
乾が成田を味方に入れ他の部員たちと勝負、華麗なループシュートを決めるところまで収録
タグ : ANGEL-VOICE
今週の連載雑感(2010年10月11日~10月17日)
2010.10.17 20:35
■ 今週の雑感リスト
- ANGEL VOICE
- キャプテン翼 海外激闘編 EN LA LIGA
- 龍時
- 蹴児
- うるとらスーパーさぶっ!!
今週の『GIANT KILLING』#183
2010.10.14 23:24
すいません、まだ記事を見返してないんですけど、書きたいことはひと通り詰め込んだんで、これでひとまずあげておきます(あとで手直しする部分もあるかも?)。
タグ : GIANT-KILLING
今週の連載雑感(2010年10月4日~10月10日)
2010.10.10 23:13
■ 今週の雑感リスト
- ANGEL VOICE
- LOST MAN
- コラソン ~サッカー魂~
- LIGHT WING
- T.R.A.P
- キャプテン翼 海外激闘編 EN LA LIGA
- うるとらスーパーさぶっ!!
月曜祝日の都合で土曜発売になっている雑誌の感想も含んでいます。
それと、『蹴児』は、次回の更新に回します。
タグ : ANGEL-VOICELOST-MANコラソンLIGHT-WINGキャプテン翼海外激闘編T.R.A.Pうるとらスーパーさぶっ!!
今週の『GIANT KILLING』#182
2010.10.07 21:01
今週は、表紙&ジャイキリムック第3弾のプレビューが巻頭カラー(プレゼントもあるよ!)となっています。
(参考リンク:モーニングで非売品づくしのジャイキリグッズプレゼント)
それと、今週号にモーニングに、ジャイキリシート11月開催分の募集要項が掲載されています。10月に入って、気候的にもサッカー観戦日和となってきていますし、興味のある方は応募してみてください。
(参考リンク:《ジャイアントキリングシート2010》、11月開催分の募集がスタート!)
タグ : GIANT-KILLING
【読み切り雑感】『Pinch kicker -あるいは走れない代打-』(後編) / 手原和憲
2010.10.04 22:06
今週の連載雑感(2010年9月27日~10月3日)
2010.10.03 21:39
■ 今週の雑感リスト
- ANGEL VOICE
- LOST MAN
- コラソン ~サッカー魂~
- LIGHT WING
- キャプテン翼 海外激闘編 EN LA LIGA
- 龍時
- うるとらスーパーさぶっ!!
タグ : ANGEL-VOICELOST-MANコラソンLIGHT-WINGキャプテン翼海外激闘編龍時うるとらスーパーさぶっ!!
2010年10月発売予定のサッカーマンガ
2010.10.03 20:38
■ 10月4日発売
『少年疾駆 2(完)』 / 附田祐斗
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】
■ 10月8日発売
『ANGEL VOICE 18』 / 古谷野孝雄
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■ 10月15日発売
『YATAGARASU 24』 / 愛原司
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】
『さよならフットボール 2(完)』 / 新川直司
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】
■ 10月19日発売
『キャプテン翼 海外激闘編 EN LA LIGA 2』 / 高橋陽一
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】
『キャプテン翼 海外激闘編 EN LA LIGA 2 30周年記念小冊子付き特装版』 / 高橋陽一
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【bk1で見る】
■ 10月22日発売
『GIANT KILLING 17』 / ツジトモ (原作・原案:綱本将也)
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【bk1で見る
】
■ 10月27日発売
『俺たちのフィールド 5 (My First WIDE)』 / 村枝賢一
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