『GIANT KILLING 14』 / ツジトモ 原案・取材協力:綱本将也
2010.04.30 13:52
※ネタバレとなりうる要素を含んでいますのでご注意ください
※連載を読んだ当時の感想を読みたい方は、今週の『GIANT KILLING』アーカイブを辿ってみて下さい。
4月からNHKBSでアニメが始まり、さならなる飛躍が期待される、『GIANT KILLING』14巻の感想です。
真夏のお笑いの祭典・オールスターゲーム。
13巻では前座のマスコットたちによるミニゲームで大いに盛り上がり、本番である日本人選抜vs外国人選抜もキックオフ。
名古屋グランパレスのブラジルトリオなどの過去に対戦した懐かしい顔があったり、モンテビア山形の監督・佐倉や40歳を過ぎてなお現役、日本の至宝・ケン様こと古内健など、新キャラたちも抜群の存在感を見せていました。
14巻では、オールスターゲームの残りの部分、そして、リーグ戦はひとまずお休みということで、リーグ中断期間のエピソードへと話は移っていきます。
※
14巻の見どころはと言いますと、1話分しかありませんがさりげに重要な描写もあるオールスターの残りの話、そして、いつも楽しいエピソードばかりとは限らない・・・、石浜の移籍話、そしてそして、暗黒時代に迎えることになっていった10年前のETUの話となっていきます。
オールスターの話は、13巻のラストから一気に話は飛び、いつの間にか後半だけでハットトリックを達成しMVPを獲得していたケン様の素敵な笑顔が印象的でしたが、その後、達海と東京Vの平泉とのやり取りはシリアスな気持ちにさせられるものでした。
元々怪我を抱えながらプレーしている、東京ヴィクトリーのエース・持田を自分の過去と重ね合わせてしまったのか、平泉を追及する達海に対して・・・
「ピッチに立つのが生き甲斐の人間を
檻に閉じ込めておくのがお前の思いやりか?
これは持田がどう生きるかという話だ……
他人がとやかく言える問題ではない
その上我々がいるのはプロの世界だ
ここで私にできるのは……
プロとしての持田の覚悟に覚悟ももって応えるだけだよ
お前もそうだったんだろう? 達海
お前も足に異常を抱えたまま
両足が壊れるまで走り抜けたんだろう?」
と答える平泉の言葉には、何とも言えない切なさを覚えました。
このへんは、連載当時の雑感でも書いたと思うのですが、怪我や病気などを抱えた選手に対して無理をさせすぎず、選手生命を守ることを考える、はやり焦る選手の気持ちにストップをかけるのも監督の仕事のひとつなのでは・・・と思うのですが、対象がもはやその限界を越えつつある持田ということを思うと、平泉も苦渋の思いで持田の覚悟に応えているのだろう・・・。そう思うと、やはり切なくやるせない気持ちになってくる。
このシーンは、先の展開にもつながっていく部分もあり、その先の展開を読んでこのシーンを振り返ると、また違った深みを感じることができました。
※
出会いばかりでなく別れもある・・・
ETUからヴァンガード甲府へと移籍を決意した石浜のエピソードもいろいろ思うところありました。
こう言っては失礼極まりないですが、試合にコンスタントに出場していた選手たちの中では、赤崎にボロクソ言われてしまったりなど、ちょっと心許ない部分もあった石浜。
そんな石浜だけど、私たちが応援するETUに対して愛情を示し、彼なりに懸命にプレーしていました。そんな仲間がETUを去ってしまうというのは・・・、やっぱり悲しいことだと言わざるを得ない。でも、決断したのは誰でもなく石浜本人。その気持ちは尊重してあげたいし、頑張れと言ってあげたいけど・・・完全にETUのファン視点で作品を読んでしまっている立場からすると、まぁ、いろいろ複雑です。
この石浜のエピソードを描くにあたっては、ETUは石浜を必要とし必死に説得するけれど、選手本位で物を考え石浜にかける達海の言葉の数々がやはり良かったですし、同期でサイドは違うけど同じポジションで仲の良い清川との描写も素晴らしかった(まさか、ハマ&キヨのここまで泣かされようとは!)、石浜の移籍に反発を見える選手たちに自らも移籍を決断してETUにやってきた最年長・緑川の言葉というのも重みがありました。
・・・そして何より、#131の後に2ページ分、モーニング本誌には掲載されず加筆された描写が、本当にさりげないと思うんですけど、その2ページ分の加筆が泣けました。
移籍した石浜がどうなってしまうのか、私には分かりませんが、シーズン後半の甲府戦は隅田川スタジアムで迎えることになります。
移籍した石浜が隅田川スタジアムに帰ってくる・・・
このシーンは絶対本編で描いてほしいと、私は願ってます。
※
そして、話はETUの過去へと映っていくわけですが・・・
話の鍵となっていくのが、津川会長という人物。
人情的な印象の強いETUの人々とは違って、ビジネスサイドの人で経営者としての感覚を持ち合わせている津川会長。
津川会長の経営者としての感覚は確かに大切なことだと思うんですけど、クラブへの愛情よりも自身の野心が強く感じられる津川会長の言動はあまり好きになれないというのが個人的な印象なのですが(野心の部分を強く感じるから、言動が詭弁にしか聞こえなくなってしまう)、このあたりの見方は結構分かれるところのようです。
『GIANT KILLING』という作品を今後語っていく上でも、10年前の出来事というのは、すごく大切な描写だと思うのですが、このあたりは15巻にも続いていきますし、すべてを描き切ったところで改めて考えてみたいです。
そんな中でも、らしさを垣間見られる、10年前の湘南戦での現役時代の達海のプレーは面白かったですね。
14巻は、特に13巻のオールスターとのギャップで、シリアスに話は展開されていきました。
明るく楽しい話の方が好きな人も多いかと思いますが、そうでない部分というのもひとつのサッカークラブの物語としてあって然るべきことだと思います。
・・・書く方としては、明るくノリがいい展開の方が感想を書き易くはあるんですけどね(苦笑
※
ここからは単行本ならではのおまけと言うことで、まずは毎回恒例の初版限定ステッカーから。
巻頭部分のおまけは、“パッカくんを探せ”です。
私は、たまたま視線を落とした先にパッカくんがいて、企画の趣旨そのものを堪能することはできなかったのですが(苦笑)、隅田川スタジアムのどこに誰がいるんだという全体像が分かりますし、リーグジャパンのマスコットたちがあちらこちらに散りばめられていて面白いものだったと思います。
それと、お話の間に挿入されるカットもいつもながらに面白かったです。
今回は、収録の内容上ちょっとシリアス色が強いものになっていますが、タンさんと有里のやつには楽しませていただきました(笑
15巻ではどんなものを見せてくれるのか楽しみです。
※
さて、続く15巻は、早くも5月21日の発売となります!
内容的には暗い過去を描いていくので、正直楽しみに・・・とは言えないのですが、むしろ連続の単行本発売で一気に突き進んだ方がいい部分なのかもしれません。
楽しい時もあればそうでない時もあるということで・・・
ETUの過去を、ただ静かに見守っていってほしいなと思います。
■ 掲載
#128~#137
週刊モーニング2009年39号~48号
10年前の東京ダービーが始まるところまで収録
タグ : GIANT-KILLING