『龍時 9』 / 原作:野沢尚 漫画:戸田邦和
2010.03.09 00:46
※ネタバレとなりうる要素を含んでますのでご注意ください
今回から“第2部”として、スペインに渡ってから2シーズン目の様子が描かれていく・・・、『龍時』9巻の感想です。
念願だったリーガ・エスパニョーラの舞台に立ったリュウジは、リーグ戦最終節のバルセロナ戦で見事なドリブルシュートを決めた・・・!
ところまで8巻では描かれましたが、9巻では“第2部”のスタートということで、何の前触れもなく新シーズンへと話が移っていきます。
「日本人プレーヤー志野リュウジ ベティスへ移籍!」
・・・というわけで、9巻からは、アトランティコFCからレンタルでレアル・ベティスに移籍したリュウジの物語が描かれていきます。
※
8巻でバルセロナの選手たちが実名登場してるとはいえ、それはあくまで特例的で、個人的には版権関係がいろいろとあるし、リュウジがアトランティコ(架空)からベティス(実名)に移籍する話は読むことができないのではないか・・・と、ずっと考えていたので、今回こうして続きを読んでいくことができることを素直に喜びたいです!
ただ、原作である小説は、'02-'03シーズンを描いたもの。
8巻のバルセロナのメンバーは、2008年ぐらいのデータのものということからも察しがつくように、登場するメンバーが原作でる小説版とは違います。
そのあたり、あまりにメンバー古すぎても・・・という部分は確かにあるんですけど(今から7年も前のもの)、小説版ファンでもある立場からすると、ホアキンが登場しないのは残念だなぁと思ってしまいますね。ずっと先の展開を描いていくにあたって、ホアキンだからこそ意味があるシーンもありますし。
それに、メンバーが2008年ぐらいものということで(多分、ロナウジーニョのいるバルサを前巻で描きたかったからなんだろうなぁ)、9巻で登場するレアル・マドリードには、C・ロナウドやカカといった選手たちが登場しません。そのへんは、ちょっと中途半端な形になってしまっている感もあります(ロッベンやラウールなど、普通にレアルの選手が実名登場してるだけでも最近においては凄すぎる話なんですけどね!)。
ストーリーの方は、ベティスに移籍したリュウジが時折素晴らしい個性を見せるものの、現実を突きつけられる部分もあったりで・・・、本格的にチームに認められていくようになっていくためのプロセスを描いていくといったものになっています。
8巻でリュウジは、プジョルをフェイントでかわしてシュートを決めているわけですが、2度目の対戦が描かれる9巻ではプジョルの圧倒的なフィジカルを前にドリブルが通用せず、挙句はリュウジがボールを奪われ発動したカウンターが逆転ゴールにつながってしまうという苦い思いをさせられています。
バルセロナとの再戦では、小説版とは少々違った展開になっていて、コミック版では1回目の対戦でリュウジにかわされてしまったプジョルがリュウジのことを強く意識している描写があるといった、少年マンガ的なアレンジがなされてたりします(小説版だと、1回目の対戦でリュウジにかわされてたのはフランク・デブール)。
コミック版のオリジナルということで言えば、かつてシティオで一緒にプレーしていて、トップチーム入りをかけた紅白戦の中でリュウジが骨折させてしまったエミリオが再登場します。
どういった形で登場するかはご自身で読んで頂きたいのですが、プジョルに潰され悔しい思いをしたリュウジが、チーム練習としてやってることを無視してまでドリブル突破を挑み続ける姿を見て、刺激を受けるエミリオのシーンはすごく良かったと思います。
リュウジの方も、今回は少年マンガの主人公っぽいところも見せていますが(笑)、そんな我を通しつつひたすらストイックにサッカーに取り組んでいく姿というのは私は好きです。
そんなリュウジのメンタリティ、挫折感と反骨精神の描写を読み取っていくのが面白いな~と思います。
「願わくば迷わないでくれ 前に進むことを抗うことを!!
君のあの強気なプレーはたとえ今至らなくても
いつか必ず……… 必ずスタジアムも血脈となる日が来る!!
……そして 日本サッカーにも」
と、リュウジを取材に来た記者も言ってましたが、私も同じ気持ちで読んでいます。
話のベースをなっているのは数年前に書かれた小説ですが、スペインで挑戦を続けるリュウジの物語は、今でも色褪せるものはないですし、実在のリーガ・エスパニョーラを舞台に実名選手たちが登場するという点でも価値はあると思うので、もし未読の方がいらっしゃれば読んでみてほしいなと思います。私は、純粋にサッカーを主体に楽しめるサッカーマンガのひとつだと思ってます。
※
続く10巻では、ベティスで奮闘するリュウジの日々が描かれていくことになります。
小説はひと通り読んでいるので、先の展開は知っているんですけど、コミック版ではここからリュウジが成長していくプロセスをどのように描いていくのか、コミック版ならではのオリジナルの部分も含めて楽しみにしています。
■ 掲載
第102節~第113節
ワールドサッカーキング2009年7/16号(No.121)~2010年1/7号(No.133)
リュウジがベンチ入りすらできなかったアンダルシアダービーまで収録
タグ : 龍時