『さよならフットボール 1』 / 新川直司
2010.02.27 00:35
※ネタバレとなりうる要素を含んでいますのでご注意ください
マガジン・イーノで掲載されているサッカー少女を主人公にした作品、『さよならフットボール』1巻の感想です。
体格に勝る男子と混ざりながらも、少女の夢は色褪せない。
誰よりも速く、誰よりも強く、誰よりも上手くなりたい――
14歳。恩田希の青春は、加速する!!
(作品帯より)
作品の概要を簡単に説明していくと・・・
中学校の一般(男子)サッカー部に所属しているサッカー少女・恩田希(おんだ のぞみ)の青春ストーリーを中心に描いていくものです。
女子は試合に出せないと念を押されているにもかかわらず、どうしても新人戦の1回戦に出たいと強く願う希。そのために、あれこれ画策してみたり、懸命に練習に励んでいくのですが・・・、希はなぜそこまでして試合に出たいと望んでいるのかというその背景部分の描写、そして希の願いは叶えられるのか・・・といったところが、1巻の見どころになっていきます。
※
私の作品を読んだ感想としましては、サッカー少女を主人公とした青春ストーリーという視点から見てなかなか面白く描かれているのではないかと感じました。
私がそう感じる理由は、新人戦の1回戦だけでもいいから試合に出たいと強く望む希の心理描写がサッカーの部分を決しておざなりせず、きちんと丁寧に描いているところにあるのかなと思います。そして、恩田希という主人公の少女のキャラもとても魅力的だと私は感じてます。
サッカー部分でのキーワードとなってくるのが、中学生以降になると男女の差が顕著に表れてくる“フィジカル”の差。
希は、かつて自分の子分格で不器用でサッカーは下手だけど自分を慕っていたナメックと呼ばれる少年と数年ぶりに再会します。そのナメックは、数年の空白の間に身体が大きく成長し、希たちの学校と新人戦の1回戦で対戦することになる江上西中のキャプテンとなっていました。
そのナメックが再会した希に言い放った言葉が・・・
「サッカーはフィジカルだ
身体のデカイ俺に女のお前が敵うわけがない
お前に何が出来る? その身体で何が出来る?
男というだけで俺は―― お前を超えたレベルにいるんだ」
このナメックの言葉をそのままストレートに受け取ってはいけないのですが・・・(このあたりは読んでいけば分かります)、この言葉が希に火をつけ、是が非でもナメックのいるチームと対戦できる唯一のチャンスである新人戦の1回戦に出たいと強く願うようになります。
(まあ、ナメックの言葉に火がついたと言っても、決して憎んでいるということではなく、むしろとても気にかけている。ナメックの方も、自分がかつて慕った希のことを気にかけている。強気になってしまったのは、自分がキャプテンで後輩が見てる手前といった部分もあったりして・・・
また、希のチームメイトたちも、希に想いを寄せいている描写もあり、このあたりは別の意味で14歳という年齢の青春ストーリーを描いていっているといった要素も、今後の見どころになっていくかもしれません。)
で、この機会が唯一のチャンスであると希が考えているのは、希自身がサッカーにはフィジカルも大切な要素であることを十分自覚していて、今このチャンスを逃してしまったら、年齢的に開く一方であるフィジカルの差が決定的に開き、永遠に真っ向勝負できる機会がなってしまうことを知っているからなんです。
希が自身のフィジカルのことを理解している心理描写というのが作中何度か描かれていくですが・・・、読んでいて、ものすごく切なくなってくるんですよね。自分の現実を理解して受け入れるというのは、やはり切ないものがあります。
男子の中に女子が混じってという描写はこれまでのサッカーマンガの中にもありますが、決定的な男女間のフィジカルの差というのをここまで真っ向から描いたものというのは今まで記憶になく、テーマとしては面白いのではないかなと思います。
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そして、私がこの作品を面白いなって思わせてくれるのは、何といっても希という女の子が魅力的に描かれているからだと思っています。
試合で使ってもらうためあらゆる手段を駆使して監督に媚を売ろうとしてみたかと思えば、サッカーに関しては誰よりも真摯に練習に取り組む姿勢を見せたり、フットサルで自分を野次った相手にカントナキックをかます気性の荒さもあれば、先程描いた女子であることのコンプレックスを感じる描写もある。
サッカーをしている時の表情もすごくいいと思いますし、まぁ、弟と強引にすりかわってピッチに立つというやり方は感心しませんが、そんな茶目っ気たっぷりで豊かな表情を見せる希の姿を見てもらいたいなーと思います(笑
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サッカー描写に関しては、先程書いた男女間をフィジカルの差についてのテーマで、ちょこちょこ小ネタ系のものもあります。作画面では一級品の上手さではないかもしれないですが、余分なセリフは極力カットしてスピーディーに展開させたりなど見せ方としては十分及第点レベルにあるのではないかと思います。
作品主体としては、繰り返しますが、一般(男子)の中学校のサッカー部に所属しているサッカー少女・恩田希(おんだ のぞみ)の青春ストーリーを中心に描いていくものなので、そういった視点では私にとっては十分面白いと思える作品でした。この作品については、連載雑感でも1~2話のことは結構書いているので、そちらも併せて読んでいただければと思います。
サッカー少女を主人公とする作品が読んでみたい方には、個人的にお薦めしてみたいものなので、もし興味があればお手にとっていて頂ければと思います。
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さて、続く2巻では、強引にピッチへと降り立った希。
ようやく念願かなってナメックと対峙することになっていきますが果たして・・・?
この記事を書いてる時点(2月27日)では、単行本と連載とのタイムラグは一切ないので、もし1巻を読んで興味を持ったなら現在発売中のマガジン・イーノをチェックしていてはいかがでしょうか。
2巻は、今秋発売予定とのことで、すでに最終巻であることが告知されていますが(新川先生自身が最初から全2巻ぐらいの構成で考えているものだと発言してらっしゃいます)、最後はどんな結末を迎えることになるのか。私も先の展開は知らないので、続きを読んでいくのを楽しみにしています。
■ 掲載
第1話~第4話
マガジン・イーノ02(月刊少年マガジン2009年7月号増刊)~05(月刊少年マガジン2010年1月号増刊)
江上西戦、弟・順平と強引にすりかわって後半のピッチに登場するところまで収録
タグ : さよならフットボール