とある新連載作品の話
2009.11.09 23:56
現在発売中の月刊少年チャンピオン2009年12月号にて、『群青シザース』(作者:大曽根賢)という作品の連載が始まりました。
↑の表紙画像の右下の少年がこの作品の主人公になります。
サッカーボールを持っているし、彼はサッカー部に入る話の流れにもなっているのですが、どうして、こういう歯切れの悪い書き方をしているのかと言うと・・・
作品の紹介コピーの中には“サッカー”の文字が一切入っておらず、中学生の青春グラフィティという点しか強調していないからです。
主人公は、中学2年生で、いじめを苦に新しい中学へ転校するところから始まっていきます。主人公は、サッカー経験はありません。中学のサッカー部も本格的・・・とは言えないような状況(に見えた)。
ちょっとしたことから、クラスメイトの3人組に誘われ、誘われたことが嬉しかったのかな、サッカー部に入ることを決意するところまで1話では描かれています。
画的には、作品のテーマとの関わりもあるのでしょうが、陰のある画を描かれる方で、一般受けするタイプではなりだろうなと思います。動きのある画は、かなり苦手とされてそうな印象があります。走ってる時の姿が、まるで走っているようには・・・。
ストーリー的には、いじめられていた前の学校から新しい環境にやってきた主人公が、サッカー部に入り、すんなりと新しい何かを見つけ手に入れていくことができればいいのだけど、きっとそう簡単にはいかないんだろうなぁ。時折過去の記憶がフラッシュバックされつつ、揺れ動く主人公の陰のある心理描写を追っていく、そこが見どころ・・・といった感じになっていくのかなとイメージしています。
正直なところ、サッカー描写的な部分は、1話だけではどうにも判断できません。
そもそもコピーの中で、サッカーうんぬんの言葉は使われていないので、サッカーがあまりストーリーに絡まなかったとしても文句は言えないですし、ひとまず、サッカーマンガとして定義するかどうかの判断は保留しておきます。
ただ、作品のタイトルが『群青“シザース”』であること、登場人物のひとりの名前が相馬浩二であだ名がジーコと某サッカークラブをイメージさせてくれるあたりから(あと、これは関係ないだろうけど、主人公がドクターペッパーを飲んでたことw)、サッカーとの絡みにそれなりに深いものになっていく・・・と思っていたいです(笑
とりあえず今回は、こういう作品があるということだけ紹介しておきます。興味のある方は、チェックしてみてはいかがでしょうか。
『ANGEL VOICE 13』 / 古谷野孝雄
2009.11.09 00:14
※ネタバレとなりうる要素も含んでいますのでご注意ください
部の存続を賭け、市蘭の全校生徒・全教員が見つめる中、名門・帝稜高校と試合を行う市蘭サッカー部。
試合は、前半10分、コーナーキックから成田がヘディングで決め先制点を奪うことに成功します。しかし、脇坂たちが一般生徒たちの目を意識し、より高いレベルのプレーを目指しプレーしますが、それが仇となり、チームとしてのバランスを崩し同点に追いつかれてしまう市蘭サッカー部。
市蘭ディフェンス陣に不穏な空気が流れ始める中で、試合の行方はどうなってしまうのでしょうか・・・と言ったところから、13巻は始まっていきます。13巻は、まるまる帝稜戦が描かれていきます。
※
面白いですね。
いつも、ありきたりな言葉ばかりで、ほんっと申し訳ないんですけど、ひたすらに面白いです!
あまりに内容が濃すぎて書きたいことだらけなんですが、それだとまた収拾がつかなくなってしまうので、大きく分けて2つのことについて書いていくことにします。
※
「一度(ひとたび)くるい始めたリズムを元に戻すのは 容易なことではなかった」
12巻のラストにあった言葉の通り・・・、同点に追いつかれ、さらに逆転され、ディフェンスのやり方を戻したにもかかわらず失点を重ね続け、リズムを取り戻せないまま1-4というスコアで前半を終了した市蘭。
連携が取れず、互いに苛立ち、殴り合い口論をする脇坂と所沢。
そんな、最悪なハーフタイムを迎えましたが、ここで存在感を見せてくれたのが監督の黒木と、すっかり市蘭ファミリーの一員となった臨時GKコーチの関根のじっちゃんでした。
まず、黒木は脇坂に対して、これまでは百瀬と半々の割合でディフェンスラインのコントロールを・・・
「――後半からは
ラインコントロールをお前1人に任せたい」
と、大役を任せることで責任感を持たせます。
それにより、百瀬のディフェンス面での負担が減ってより攻撃に絡んでいきやすいというメリットもありますが、何より、このことが脇坂に自信を与えることができたことに大きな意味があったと思います。今の脇坂は、百瀬の次にキャプテンマークが似合う男と言えるほどに成長しましたね~。黒木のDF出身の監督ならではの視点というのも良かったです。
そしてもうひとつ、関根のじっちゃんは、所沢に対して、これまでの欠点であったコーチングの部分についての指導をします。
コーチングと言っても、指示の内容そのものが悪いのではなく、上級生(脇坂、万代、水内など)に対して、丁寧に“さん付け”で呼ぶことで時間的なロスを生んでいたというのが何とも所沢らしい理由です。
さらに、じっちゃんは、ディフェンスラインの4人を・・・
「ブンタ(広能)、ワッキー(脇坂)、バン(万代)、ジミー(水内)」
と、呼ぶように厳しく指導します。
まぁ、この部分だけでも、普通に納得できてしまうものなのですが、これだけで終わらせないのが古谷野先生の恐ろしいところです。
“地味だからジミー”だと呼ばせたことに対して、軽く凹んでいた水内を尻目に、実戦を想定して所沢に練習をさせるじっちゃん。
「ジミー ゴールをカバー」
「そんな小さい声で聞こえるか!!」
「ジミー!! ゴールをカバー!!」
「まだまだ小さい!!」
「ジミ――!! ゴールをカバー!!」
「もっと!!」
「ジミー!!
ゴールをカバ―――!!!」
「そ…そんなに
地味なのか……? オレは||||||」(by水内)
所沢が頑張って声を張り上げれば張り上げるほど、それに比例してジm・・・いや、水内が凹んでいくという・・・、すごくシリアスな局面なはずなのに、笑っちゃ水内に悪いだろ・・・と思いつつも、この場は声を出して笑わずにはいられませんでした。
乾や尾上がシリアスな表情をしている中、あれが延々と繰り返されてるところがまたシュールさも誘っていて、違った意味で笑えます。
このシリアスな局面の中、じっちゃんの指導内容にサッカーマンガとして普通納得してたところから、しれっとギャグ描写に持っていく古谷野先生。
で、その後、さらに水内は、ジミーと連呼したことを謝る所沢に対して・・・
「水内じゃねぇ ジミーだ」
と、振り返りなら言います。
・・・え、なに、この謎のカッコ良さは?(笑
このあたりの古谷野先生のセンスが大好きです。
天賦の才を感じずにはいられません。
えーっと、何だっけ・・・、気が付いたら水内がメインの話になってしまいたが(笑)、じっちゃんの指導を受けた後の所沢は、自身の欠点を克服し、大きな成長を見せてくれました。
水内の方も、あわやゴールかというところを間一髪クリアしてサムアップするなど、これまでの地味キャラから一転、13巻で一番輝きを放つ活躍を見せていたと思います。このジミーの場面だけでも、420円以上の価値があったと、私は言い切りたいです!
※
もうひとつ取り上げておきたいのは・・・
後半1-4から乾と二宮のゴールで3-4と1点差に迫った市蘭。
市蘭イレブンの勢いが増し、イケイケモードになったところで帝稜は、前巻でもやたらと目立っていた坪井を投入。
持ち前の高い戦術眼とディフェンス技術で成田を封じる坪井。
それによって、他のDF陣たちの動きの良くなり、徐々に攻撃の糸口を失っていく市蘭。
部の存続のためには、どうしても勝利が必要で、あと2点を取らなければならない状況。試合の残り時間の減り、焦りの色濃くなっていく時間に差し掛かってくる局面ですが・・・
「オレたちは知っている―― 最後まで全力で走れることを
オレたちは知っている―― 走り抜けば何かが起こせることを
船学戦がそうだったじゃねーか!!」
船学戦での成功体験を胸に、自分たちを信じて最後まで全力で走り続けようとする市蘭イレブン。
このシーンを見て、期待する気持ちが自然と沸き起こってくるのは、私自身も、船学戦で疾走し続ける市蘭イレブンたちの姿を見てきて、心の底から熱い気持ちになったからだと思うんですよ。
ここまで地味にだけど丁寧に描き続け、着実に積み上げたものがあるからこそ、強い説得力を持たせることができるわけであり、このあたりにも、古谷野先生のストーリー構成の上手さを感じることができました。
1巻の頃は、期待する気持ちはあるけれど、「絶対に面白くなる!」という確信を持てないでいましたが、その後、着実に面白さを増していき、今では圧倒的な面白さを実感しています。ここまで右肩上がりで上昇し続ける作品も珍しいと思います。
サッカーシーンの躍動感のなさに若干の不満を持っているのは確かなのですが、それを差し引いて余りある魅力が他にありますし、もっともっと売れてほしい作品だなと思いますね。もっと評価されるべきです!
※
他にも、帝稜の坪井についてだとか、サッカー部の練習を隣で見続け、サッカー部に「勝ってほしいなあ」と言ってくれた野球部部長の話だとか、1-4にされて試合を観るのをやめようとした教員を必死に引き止める校長先生だとか・・・語りたいことはいっぱいあります。
けど、それらをひとつひとつ拾って書いていくと、とんでもなく長文になってしまうので、そのあたりは、毎週書いてる連載雑感と併せて読んでいただければと思います。
※
さて、続く14巻では、13巻のラストを見ても分かるように、帝稜戦の最後の最後、最大のクライマックスから描かれていきます。
ラインを割りそうなところを必死に食い止めたジミーから所沢、脇坂とつなぎ、乾が前方へとフィード・・・その先には、成田と坪井。ラストワンプレーの結末はどうなるのか。
そして、サッカー部の行く末は・・・?
先の展開は知っていますが、改めて単行本で読むのが楽しみです。単行本派の方も、楽しみに待っていて下さいね!
■ 掲載
第106話~第114話
週刊少年チャンピオン2009年30号~39号
市蘭vs帝稜、同点のまま後半ロスタイムを迎えるところまで収録
タグ : ANGEL-VOICE