『ANGEL VOICE 12』 / 古谷野孝雄
2009.09.23 21:35
Amazonおすすめ度:

※ネタバレとなりうる要素も含んでいますのでご注意ください
記事のアップが遅くなってしまい、申し訳ないです。
『ANGEL VOICE』12巻の感想です。
王者・船和学院との準々決勝。
サッカー部存続のためのノルマであるベスト4入りを懸かった大一番ではありますが、王者相手に力の差を突きつけられることとなり、0-9と言葉にするまでもなく、勝利は絶望的な状況に・・・。
・・・しかし!
「――それでも…… それでも走るんだ」
勝利は絶望的であっても、せめて、船学の胸に自分たちの存在を刻み付けてやるために、気力を振り絞って走り続ける市蘭イレブン。
12巻では、試合時間が残りわずかとなる中、攻撃に出る市蘭は一矢を報いる1点を奪うことができるのか・・・といったところから始まっていきます。
※
熱くさせてくれたり・・・
虚しい、やるせない気分になったり・・・
憤りに近いものを感じたり・・・
今回もいろんな意味で、私の心を揺さぶってくれました。
まずは、船学戦の決着。
9点差をつけられても、もうサッカー部は存続できないと分かっていても、それでも最後まで全力で走り続けようとする市蘭イレブンの姿勢が実を結びます!
成田からパスを受けた乾。
船学DFに厳しいマークを受けながらも乾は、万代にスルーさせ、尾上へとスルーパスを通す。
パスを受けた尾上は、右足で打つシュートコースがないため、威力は弱いながらも左足でシュート。しかし、船学のGK・皆川がひじで当て防ぎます。そのこぼれ球を成田が押し込むも皆川はかろうじて身体に当て、市蘭にゴールを割らせませんが、一瞬ボールを見失った皆川、気づいたときには乾が走り込んでいて、なんとかボールをゴールに押し込もうとしますが・・・
すでに前後半90分近く走り続け、一度両足を痙攣させてしまっている乾(11巻参照)は、足がもつれ転んでしまいます。
しかし、ちょうど乾が転んだ先に、ボールが転がり込んできて・・・
ここで、視点が相手のカウンターに備えて、ハーフウェイラインにポジションを取っている脇坂に移るのですが、混戦模様になっていてゴール前の状況が見えずにイライラしている脇坂は・・・
「この日一番大きな歓声がわき起こった
その歓声が市蘭のゴールを伝えた」
観客の歓声によってゴールが決まったことを察し、声を張り上げる・・・
ゴールシーンを直接見せずに、ゴールが決まったことを悟らせる、この演出が心憎すぎんですよねー!
9点をつけられても、決して投げやりになることなく、自分たちの戦い方を貫いてもぎ取った1点。
絶望的な中でも、自分たちらしさを貫き続けたことが、しっかりと“結実”したことが、本当に良かったなぁと思います。それを成し遂げた市蘭イレブンはカッコいいと思いますし、見ていて泣けました。
・・・
・・・ですが、試合は1-9と大差をつけられ敗れてしまいました。
結果は、屈辱的な大敗と言えるものかもしれないけど、90分間懸命に走り続けた市蘭イレブンを笑うものは誰もいない。ピッチから引き上げる市蘭イレブンを観客たち。
彼らの戦いぶりは、確かに、観客たちの心を動かすことに成功しました!
そして、試合終了後、ござる君から借りたスパイクのお金を返すために、船学のロッカールームを訪れた成田は、船学選手たちから健闘を讃える言葉の数々受け・・・
彼らの戦いぶりは、確かに、自分たちの存在を船学の面々に刻み付けることにも成功しました!!!
だけど・・・
「次はねえ!! 終わったんだよ」
・・・そう、結局、どれだけ人の心を動かすことができたとしても、ノルマであるベスト4に入れなかった市蘭サッカー部は、廃部の運命を辿ることになる・・・。
このあたりは、連載を読んで、先の展開を知っている状態で読み返すと、少し感情的に薄らぎますが、市蘭サッカー部員の心情を思うと、切なさ、虚しさ、何とも言えないやるせなさがこみ上げてきますね・・・。
※
その一方で・・・
「いかん!! いかんぞ!!
このまま終わらせてはいかんだ!!」
サッカー部存続派の第一人者であり、サッカー部建て直しのために黒木を招集した張本人である湯島校長は、サッカー部を何とか存続させるため、ここにきてようやく本気になって動き始めます。
そのきっかけとなる、瑠華姐さんの男気ある言動はカッコよすぎるので要チェックです。
(瑠華と校長のやり取りは、シリアスだけど微笑ましさもあって好きですねw)
結果、サッカー部は、1週間後、市蘭のグラウンドで練習試合を全校生徒・教員に見てもらい、その上で再度廃部について考え直すという、サッカー部からすればもう一度チャンスを得ることに成功します(ここは、校長の行動力を褒めてあげよう!)。
そんな事情を知らないサッカー部メンバーたちは、百瀬の提案で、最後にみんなで部室の掃除をすることに・・・。
掃除をするにも、それぞれ個性が見られて面白いのですが・・・
このエピソードでは、サッカー部の看板の裏に、歴代の先輩たちが書き残したメッセージを見つけ、それが、廃部が決まり、少し熱が冷めかけていたメンバーたちの心に再び火をともしていく場面が見どころですね。
尾上と母親とのちょっとやり取りや、麻衣の署名活動もそうですが、古谷野先生は、こういうじわじわとくる物語を作るのがすごく上手い方だなぁと改めて思います。本当、この独特のじわじわ感がたまらないです。
※
勝てば存続が決まるわけではないとは言え・・・
もう一度、戦うチャンスを得た市蘭と戦う相手は、全国大会常連校でもある、東京の帝稜高校。
帝稜戦は、13巻にも続いていくところなので、というか、ここまで長々ダラダラ書いてしまっているのでここは手短にしたいと思いますが・・・
市蘭で行われる試合とはいえ、一般生徒や教員たちは、サッカー部の廃部を望んでおり、実質アウェイで戦っている状態。
市蘭は先制点を奪うことに成功し、一般生徒たちも、部分的に目を奪われることはあるけれど、サッカー部に対する偏見的な目、反サッカー部の風潮もあって、彼らのことを認めようとはしてくれない・・・。
そんなところに、帝稜の同点ゴールが決まる。
失点してしまった場面は、脇坂たちが一般生徒たちに自分たちを認めさせたいがゆえに、より高いレベルのプレーを目指した結果が本来のバランスを崩し失点につながってしまった・・・。
ホームなのに、アウェイチームのゴールに歓声を送る一般生徒たちに、脇坂たちの思いを考えると、切なくもあり、憤りに近いものを感じていましたね。
そして、市蘭イレブンは、ここまで、自分たちの限界を超える戦いの中で力を発揮してきたわけですが、今回は、自分たち本来のプレー以上のことを目指そうとして失点してしまったというのは何とも皮肉な話だなと・・・。
1-1の同点になった以降の話は、13巻で描かれていくことになります。
帝稜側の話で言えば、やたらとキャラは立っているけど、今はまだベンチにいる20番・坪井は、要チェック人物です(笑
※
面白い。
本当に、面白いなぁと思います。
地味ではあるんだけど、ひとつひとつのエピソードが丁寧に描かれ、効いていて、いちいち心を揺さぶってくれます。
巻を重ねるにつれて、面白さも着実に積み上げていくということは、本当に難しいことだと思うんですよ。けど、(古谷野先生の前作の野球マンガ・『GO ANd GO』も含めて言えることだと思うのですが)それをやってのけてくれている。
古谷野先生というと、絵柄があの人に似ているとか、どうしてもそういう目に付きやすいところに視線がいきがちになってしまうのですが、もっとストーリー構成の上手さの部分にも目を向けてあげてほしいなと思います。後者の部分こそが、古谷野先生の真骨頂ですからね!
『ANGEL VOICE』も、この作品らしく、地味にじわじわと評価されているかなというのは感じますが、もっともっと高いポジションに居るべき作品だと信じているので、これからもプッシュしていきたいなと思っています。
※
さて、続く13巻では、引き続き帝稜戦が描かれていきます。
「一度(ひとたび)くるい始めたリズムを元に戻すのは 容易なことではなかった」
同点に追いつかれてしまったうえに、少し気持ちが空回り気味の脇坂たち・・・
試合の流れは市蘭に厳しい状況へとなっていきますが、全国レベルのチームを相手に勝利を収めることができるのか。何があっても最後まで諦めない市蘭イレブンの戦いに今後も目が離せません!
私自身、先の展開は知っていますが、単行本で読み返すと、また違ったものが見えてきたりもするので、2~3ヵ月後が楽しみです。
・・・
今回は、あれこれ詰め込もうとしすぎて上手くまとまらず、無駄にダラダラと長く書いてしまい反省(苦笑
まぁ、それだけ、語りたい要素が多いということですが、そのあたりは連載雑感で書いて、次回はもう少しポイントを絞って、コンパクトにまとめたいと思います。
■ 掲載
第97話~第105話
週刊少年チャンピオン2009年20号~29号
帝稜の同点ゴールが決まるところまで収録
タグ : ANGEL-VOICE