『龍時 8』 / 原作:野沢尚 漫画:戸田邦和
2009.09.08 02:23
※ネタバレ要素となりえる要素を含んでいますのでご注意ください
今回も1年以上待たされることはなかった!(笑
第1部がクライマックスを迎える、『龍時』8巻の感想です。
「オレ…… スペイン人になって
この国のサッカーを自分のものにしたい……
何もかも捨ててこの場所から始めたいんだ……!!」
「オレにはまだ自分の手で捨てなきゃならないものがあるッ
母…… 妹…… 故郷…… 日本サッカー 国籍……
……そして もう一つのもの!!」
スペイン人に帰化することを決意したリュウジが、もうひとつ捨てなければならないもの・・・。
それは、自分のサッカーの原点であり・・・
自分に対して嘘をつき金ヅルとして利用することを目論む、父・時任礼作。
8巻では、父との決別を決意したリュウジが、礼作と会い、自分の気持ちを伝えるところから始まっていきます。
※
父・礼作との決別・・・
「いつか恩返しをしたいと思っていた!!
だからこそ見てほしかった!!
アナタが育ててくれた『オレ』(サッカー)が世界の舞台に旅立つ姿を!!」
と、7巻で礼作の陰謀が発覚した時、リュウジ自身がそのように言っている通り、自分の成長を誰よりも礼作に見てほしい願っていました。
しかし、リュウジの願いとは裏腹に、礼作は、リュウジを金儲けの道具として利用としようと目論んでいた父・・・。
リュウジにとって礼作は、実の父親というだけではなく、フットボーラーとしての原点、育ての親でもあり、自分の心の支えとなっていた存在。そんな礼作の“裏切り”とも取れる行為を知ったときは、言葉にできないほど大きなショックだったでしょう。
けど、フットボーラーとして前進していくために、決別を決心した自分の気持ちを伝えなければならない。
リュウジの礼作に対する想いの強さというのは、作品を通して見られるだけに、リュウジの心境を考えると複雑なものがあります・・・。
ただ、そんな中でも救いだったのは、礼作に息子を想う良心が残されていたこと。
「ならば一つだけ親らしい忠告をさせてくれ……
帰化すれば後で思い直しても簡単に日本人に戻れなくなる……
日本がいつかお前を必要とする時が必ず来る……
自分は日本サッカーに捨てられたと思ってるかもしれないが
助けれてやれ!! いつの日か『日本』(あのくに)を
お前は父親まで捨てるんだ 国まで捨てることはない」
父親からの最後の忠告、そして別れ・・・
この場面は、本当に泣けました。
『龍時』は、こういうタイプの泣かせる場面って、結構ありますよね・・・。
※
もうひとつの見どころは、リーグ最終節のアトランティコvsバルセロナ。
ロナウジーニョ、シャビ、プジョル、メッシ、エトー・・・
メンバーは少し古いですが、あのバルサの選手たちが実名で登場し、ピッチの中を駆け回る姿をお楽しみください、と!(笑
また、コミック版では、小説版とは違い、シティオで一緒にプレーをしていたエミリオとアントニオ、そして、以前U-17選抜チームで一緒にプレーし、リュウジのライバル的な存在だった梶が(あと、FWの三村も)、リュウジの試合を観戦に訪れています。ハーフタイム中でのリュウジと梶のやり取りは、ニヤニヤとさせてくれるものがありました。
そして、物語は第1部のクライマックスへ。
「好きにやってこい……!」
いかなるときでも守備偏重の布陣を敷く、リュウジとは相性が良くないタイプであるアルバレス監督からの思わぬ言葉に驚きながらも、ピッチへと送り出されるリュウジ。
ついに訪れたリーガデビュー。
両チームの選手が80分間命懸けでピッチに放ってきた熱を肌で感じながら、「ならばオレも……!」と、その熱と同化してピッチを駆け回るリュウジ。
途中、プジョルに手荒い洗礼を受けるものの、
それがリュウジの中に眠る“龍”が目を覚ますこととなり・・・
そして、“その瞬間”はやって来ます!
後半ロスタイム、1点のリードを守るため時間稼ぎに入るバルサから味方がボールを奪い、そのボールはリュウジの下へ。
リュウジは、さっきのお返しと言わんばかりに、切れ味鋭いシザースでプジョルをかわし、空いたシュートコース・・・
迷わずシュートを狙いにいくリュウジ。
ふと、リュウジの脳裏には、幼い頃、父と一緒に河川敷で蹴った4号球の姿が浮かび、そのイメージを重ねながら放たれたシュートの行方は・・・!
・・・あえて、その結末は書きませんが、第1部のクライマックスは、2巻でリュウジがスペインU-17代表からゴールを奪った時と同じくらい、私の気持ちを昂ぶらせてくれました!
※
『龍時』は、非常に質の高い小説をベースに、リアリティのあるサッカー描写と、サッカーを主体とした人間ドラマが魅力的な作品だと思います。
実名のリーガ・エスパニョーラの選手たちも作中に登場しますし(9巻以降も登場します)、 サッカーの要素の強いサッカーマンガ(サッカーマンガと言っても、サッカーが一番大切な要素になって作品は結構多い)を読みたい方には、手に取ってもらいたいと個人的には思います。
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さて、続く9巻では、第2部が始まっていきます。
リュウジはスペインでの2シーズン目を迎えることになるのですが、原作の小説を読んでいない方には、ちょっとした驚きがあるかもしれません。
リーガ・エスパニョーラを舞台に、コミック版のリュウジがどんなプレーを見せてくれるのか。
実在選手たちとの競演という点でも、先の展開が楽しみです。
■ 掲載
第89節~第101節
ワールドサッカーキング2009年1/8号(No.105)~7/2号(No.120)
第1部終了まで収録
タグ : 龍時