『ANGEL VOICE 10』 / 古谷野孝雄
2009.04.14 21:15
Amazonおすすめ度:

※ネタバレとなり得る要素を含んでいる可能性がありますのでご注意ください
今、一番読む者の心を強く揺さぶるサッカーマンガかもしれない・・・
『ANGEL VOICE』10巻の感想です。
全国高校サッカー選手権の決勝トーナメント1回戦。
千葉南光と戦う市蘭サッカー部は、試合序盤こそ初めて体験する芝のピッチに戸惑いを見せるも、尾上のミドルで先制点を奪うことに成功。10巻は、その千葉南光戦の先制点後から描かれていきます。
10巻で描かれている内容は、千葉南光戦の決着、現在の市蘭サッカー部をめぐる話、そして、いよいよノルマである県大会ベスト4をかけた大一番であり、県内いや全国クラスでの強豪校である、船和学院戦が始まっていきます。
今回も非常に面白かったです。
というか、ストーリーが進むにつれて、どんどん面白くなっていると思います。
※
まず、取り上げたいのは、市蘭サッカー部のメンバーたちは、それぞれに努力して、全力で戦い、成長を見せている・・・にもかかわらず、厳しい現実にさらさせているということ。
ピッチの外の話でその部分が描かれているのは、第81話~第82話のエピソード。
県大会でベスト8進出を決め、市蘭サッカー部を取り巻く環境もいい方向へと傾き始めても・・・と思うところですが、現実は、以前サッカー部を荒らしていた連中が再度動きを活発化させている影響もあり、市蘭の一般生徒たちの視線はあくまで冷たく、まさに、ホームになのに完全にアウェイであるかの状況。
「オレはあいつらとは違う
オレは変わったんだ もう以前のオレじゃねえ」
「わかってるよ万代
でも……… それは自分で口に出して言うことじゃない」
言い方は厳しいかもしれないけれど、少なくとも、以前は一緒になって学校を荒らしていた、万代、二宮、水内、脇坂にとっては、この仕打ちは決して理不尽なことではありません。それは、そもそも彼ら自身が招いたことなのだから・・・。
ですが・・・
誰もが市蘭サッカー部の存在を認めてくれない生徒たちばかりという状況の中、「次の試合頑張れよ」と声をかけられ、そのことが彼らにとってすごくすごく大きな勇気と希望を与えていたのにもかかわらず・・・、実際にそいつは、単にからかっていただけでこれっぽちも応援する気なんかなかったという現実。それを知った時の脇坂の涙には、さすがに言葉にならない悲しさとやるせなさがこみ上げてきました・・・。
ごくごく少数派でも、彼らを応援してくれる人がいることを、読んでる私も素直に嬉しく思っていたので、このショックのダメージは私にとってもかなり大きなものとなりました。彼らは、ここまでの仕打ちを受けなければならないのかと・・・。
そして、ピッチの中での話に目を向けると、それはやはり、敗れた時点で廃部が確定してしまう、運命をかけた船学戦。
正真正銘、絶対に負けられない戦い!
市蘭のメンバーたちは、これまで仮想・船学として、大学生を相手に練習を重ね、着実に強くなっていました。
・・・にもかかわらず、船学の古川には簡単にパスを通され、ユゥエルには簡単に突破を許し、あっという間に先制ゴールを許してしまいます。
その後も、反撃を試みるも得点を奪えず、さらには追加点を奪われ、前半の早い時間帯に3点のビハインドを負うことに・・・。
サッカーは何が起こるか分からないとはいえ、相手のことを考えると絶望的とも言える点差で、厳しい現実にさらされている状況と言えますが・・・
「少なくともここ数ヶ月の練習量はこっちの方が上だろーが!!
少しくらい意地見せてやろうって思わねえのかよ!!」
この脇坂の言葉で、やられっぱなしだった船学の攻撃に対し意地を見せ始めます。
これまで作中で何度なく見せてくれていますが、どんな状況であろうとも、決して諦めず投げ出すことなく全力で戦っていこうとする彼らの姿勢に胸が熱くならずにはいられません。
本当に、彼らを取り巻く状況は厳しい・・・。
それでも、彼らは本気でサッカーに取り組み続けていく・・・。
彼らは、本当にカッコいいと私は思います。
※
登場人物たちの着実な成長や、彼らのサッカーに対する姿勢も非常に魅力的ですが、作中に見られるギャグ描写も私は好きです。
芝のピッチでシュートをふかしてしまう成田が、ふかさないようにするためにアドバイスを受けシュートを打ったら、思いっきりダフった場面は、9巻にも描かれていますが・・・。
シュートを打つたびに、芝のえぐれ方が小さくなっていって、その成田の見せる進歩が地味に相手DFに恐怖を与えている画が私的には笑えます。
あとは、9巻で出会っている、船学のエース・"ござる君"こと古川鷹山と成田が、試合前に再会する場面もかなり面白かったです。
ストーリー的に、シリアス度が加速していくところではあるのですが、その中で見せるギャグ的描写がまた秀逸で、シリアスに偏りそうな空気をいい具合に和ませているなと思います。
このあたりのギャグ描写を面白いと思う感覚などは、人それぞれ大きく異なる部分だとは思うのですが、私からすれば、そのへんのバランス感覚は絶妙に感じられます。
※
さて、続く11巻では、船学とのベスト4入りをかけた戦いが続いていきます。
早々に3点を奪われる厳しい、非常に厳しい状況ではありますが・・・、それでも全力で戦い続ける彼らの姿を見守ってあげてほしいなと思います。
少しずつ伸びてきているとはいえ、まだまだ過小評価されていると言わざるを得ない作品。
私自身も、もっとこの作品の面白さについて、伝えていけるようにしていければいいなと思ってます。
■ 掲載
第79話~第87話
週刊少年チャンピオン2008年52号~2009年10号
県大会準決勝、市蘭vs船学、船学3点目まで収録
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