『U-31 完全版』 / 原作:綱本将也 漫画:吉原基貴
2009.01.11 12:27
かなり今さら感が強いですが(笑)、せっかく書いたので、『U-31 完全版』の感想をアップします。
今回は、レビュー寄りに書いているので、作品のもっと細かいところでの感想は、また別途に記事を書きたいなぁと思っています。
■ ストーリー
元アトランタ五輪代表の10番で、"マイアミの奇跡"と呼ばれたブラジル戦にも出場していた主人公・河野敦彦だったが、いつしかかつての輝きを失い、所属していたクラブ・東京ヴィクトリーから戦力外通告を受けてしまう・・・。
そんな河野にオファーを出していたのは、古巣であるジェム市原。
ジェムからヴィクトリーへ移籍した際のわだかまり、「あんな人気のないチームに戻れるわけ・・・」というプライドがあったものの、出場したアトランタ五輪のビデオを見ながら、こうなってしまった現在自分を見つめ直した河野は、意地やプライドを捨て、古巣のジェム市原に復帰することを決断します。
もう一度輝きを取り戻すために・・・
■ 『U-31 完全版』の概要
モーニングKCより発売されているコミックの単行本1~2巻に加え、エル・ゴラッソに掲載されたコミックで描かれなかった部分を補完する内容の小説版、ドイツワールドカップの時期に週刊モーニングで読みきりとして掲載された、真の最終回とされる「特別編」、さらには、未掲載原作の「LOVE AFFAIR」(原作をテキスト化しただけのもの)と、『U-31』として描かれたもののすべてが収録されています。
・・・と思われたのですが、小説版の最終回のエピローグ的に書かれていた部分は、掲載されてませんでした。
「特別編」を真の最終回としているので、これは仕方のないことなのかもしれませんが、個人的には、この部分を描き下ろしとしてマンガで掲載してほしかったんですけどね。それだけが唯一残念に思うところ。
■ 私的感想
もう、ただただ・・・
スター扱いから戦力外にまで堕ちて
それでもサッカーを捨てられなくて
10番にしがみついた
主人公の河野が、紆余曲折を経ながらもプレーヤーとしての輝きを取り戻していく姿に、読んでいてとてもじゃないけど言葉では言い表せないほど熱く激しく心揺さぶられました。
ジェムに復帰しても客寄せパンダとしてしか見られていなかったり、闘争心を失ってしまった先輩選手がシーズン途中で引退していまったり、代表復帰に近づいたかと思ったら怪我をしまったり、若手選手の突き上げによってポジションを失ってしまうかもしれないって状況になったり、大事な一戦を一発レッドで退場してしまったり・・・
どこかで見たことあるようなリアリティのある設定というか、リアルネタをベースにストーリーが構成されている部分が多いというのと・・・
(個人的にこういう小ネタを散りばめてるようなものは好きです)
私は部活動以上レベルでのサッカー経験者ではないけれど、アトランタ世代の選手たちには強い憧れを抱いていて、河野のモデルになっているとされる選手のアトランタ後について、いろいろ思うところがあったこと。
そのあたりが、ひとりのサッカーファンとして思わず共感、感情移入しながら、作品を読んでいたのかなぁと思います。
読んでいて、「あ~、クサイな」って感じることもありましたが、いやむしろ、私はそういうのが好きなんですよ(笑
あと、もうひとつは、作中の時代設定中でもある2003年から、リアルジェフの監督を務めていた、イビチャ・オシム前日本代表監督をモチーフにした、シニーシャ・クラリィの放つ存在感がまた格別なものがあります。
「サッカーにおいて善人がいつも勝利を手にするのなら
私もそうするがね――」
「システムは3-6-2。
今日は最強の中盤をピッチの上に創造しよう」
などなど・・・。
原作の綱本先生が、オシムになったような気で考えたという、クラリィの深い含蓄を含んだ言葉の数々は、(私自身、ひとりのサッカーファンとしてオシムさんに心酔しているというのもありますが)好きな人にはたまらないと思います。
あぁ・・・、久々に読み返しましたが、やっぱり熱いなぁ。
「成功とか名誉とかそういうことじゃない。
俺は代表に戻って確かめたいことがあるんです」
いろんなことがあったけど、結局は、サッカーを捨てられずに執着し続ける、そんな河野のハートに心底痺れますね!
■ 『U-31』とジャイキリ
同じ綱本先生が原作を努めている(現在は、原案・取材協力)ということで、『GIANT KILLING』がきっかけで、『U-31』に興味を持った方も多いかと思います。
絶対的な特定人物のモチーフはない『GIANT KILLING』に、リアルネタをベースにしている部分が多い『U-31』。
明るくポジティブな世界観な『GIANT KILLING』に対し、ひたすらにシリアスさを描いていることの多い『U-31』は、決して万人に受け入れられるとは言えないかなぁと思います。
作画の部分に関しても、暑っ苦しいほど生々しさのある人間ドラマを描いている世界観には、吉原先生の絵柄はものすごくマッチしていると私は思いますが、やはり、こちらも万人受けしやすいは言いがたいのかな・・・と。
なので、同じ綱本先生が原作の作品でも、世界観や方向性は対極にあると思うので、『GIANT KILLING』から入った人が、『U-31』を受け入れられるかどうかというのは未知数というか、感じ方は人それぞれなので私的には何とも言えません。
ですが、両作品とも根底に流れている綱本先生の持つサッカーに対する感性というのは共通していると思いますし、方向性は違っても、"私にとってはどっちも同じぐらい好きであるということ"、これはハッキリと言い切れます!(笑
■ 『U-31』と私
私がこの『U-31』の存在を知るきっかけになったのは、サッカー専門紙エル・ゴラッソのサッカー関係の本を紹介するコラムがきっかけでした(ごめんなさい、今はエルゴラは全然読んでいないので、何てコーナー名だったか忘れてしまいました)。
先程書いたことなので、ここでは省略しますが、そのあらすじをちょっと知っただけで、作品に強い興味を持ったんですよね。
それで、どうしても読みたくて、すぐさま本屋に探しに出かけて、買ってきて読んだら一発でこの作品に魅了されてしまいました(笑
それまで、サッカーは好きでも、ほとんどサッカーマンガを読んだことはなかったのですが(キャプ翼、Jドリ、シュート、ビバカル、俺フィーの序盤のほんの少しって程度)、『U-31』と出会ったことがきっかけで、他の未読のサッカーマンガに興味を持ち、あれこれ集めるようになりました。
だから、もし、この作品に出会ってなかったら、私は元々それほどマンガを熱心に読んでいるほうではなかったので、今こうしてサッカーマンガのブログをやっていることはなかったかもしれません。
そういう意味では、『U-31』は、もちろん、大好きなサッカーマンガではありますが、それ以上に自分にとっては特別な存在であると言えます。
※
私も含めて、熱心なファンは存在しているものの、元々の連載は打ち切られてしまったという作品という事実もあるので、個人的には狂信的にプッシュしたい気持ちはあるのですが、上下巻揃えるには金額的な負担も大きいので、お薦めするのはちょっと控えめにしておきます(笑
ですが、サッカー好き、特にJリーグやアトランタ世代に強い思い入れを持っている方はもちろん、サッカーにそれほど強い関心がない方でも、一見華やかそうに見えるプロスポーツの世界の裏側で、苦悩の中戦い続けるスポーツ選手のドキュメントを見るのが好きな方には、お薦めしやすいかなと思います。
リアルネタをベースにしているところは多いですが、用語を説明しているページも随所に挟まれているので、サッカー好きな方もそうでない方も、それらも合わせて読むとより作品楽しめます。
この作品を読むと、あえて具体名を挙げませんが、将来を嘱望されながらもいつしか輝きを失ってしまった選手の復活を願わずにはいられない・・・
私にとっては、そんな気持ちにされてくれる作品です。
もし、興味を持ってくれたなら、『U-31』の世界観に触れていただければと思います。