久々に『Jドリーム』 (塀内夏子)を読んでみた
2009.06.02 23:59
部屋を整理していたら、思わぬところから、『Jドリーム』(無印)が出てきて、気がついたら片付けそっちのけで夢中になって全部読んでしいました(←部屋の片づけ中にありがちな罠)。
せっかくなので、普段旧作について書くことも少ないですし、『Jドリーム』(読み返したのは、"無印"だけなので、今回はそれに限定)について、あれこれ書いてみたいと思います。
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舞台は、Jリーグ創設初期。
リーグ開幕する前年、1992年のナビスコ杯が始まる直前のお話。
日本代表が、ワールドカップに出場できれば1000万円のボーナスがもらえると知り、プロサッカー選手を目指し浦和レッズに入団テストを受けに来た、主人公の赤星鷹。
鷹は、一度は入団テストに落ちるものの、鷹のプレーを見ていたコーチに見出され、無事にレッズに加入します。
幼少の頃からボールが友達だった鷹は、16歳とは思えないほどの、抜群のテクニック、センスを見せ、瞬く間に日本代表の一員へとなります。
そこから、ワールドカップ一次予選を勝ち抜き、1993年のJリーグ開幕を経て、悲願のワールドカップ初出場に向けたアジア最終予選の戦っていく・・・というのが、『Jドリーム』無印版の大まかなストーリーです。
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私にとっての、『Jドリーム』の魅力は、ワールドカップを目指し戦う人々の人間ドラマがまずひとつ。
そして、たった"2つ"しかない、アジア枠の椅子をめぐって(現在は"4.5"ですが、この当時は"2"しかありませんでした)、利用したり、欺いたり、削ったり・・・あらゆる欲望が渦巻き、決してキレイゴトばかりではない、勝負所でのギリギリの緊迫感、"勝負のあや"をめぐる駆け引きといったものをリアリティ路線のサッカー描写で描いているところ。
人間ドラマを描く上手さというのは、他の塀内夏子作品にも共通して言えることですが・・・
- W杯出場のためなら、悪魔にでも魂を売るという覚悟を持つレネ監督
- 腰が悪く身体はボロボロだけど戦い続けるこれまでレギュラーだった富永と、身体能力・環境に恵まれ芝で育ちレネに見出されて代表入りした若さと素質に優れる上條の正GK争い
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骨折を乗り越え、戦える喜びを噛み締める嶋
(個人的に、Jドリで一番好きだったり、いつか"完全燃焼編"について書くときがあれば語りたいと思います) - レネに都合よく利用されていることを知りながら、足の痛みに耐えながらも、必死にDFラインをコントロールすし、骨折するまで戦い抜いたベテラン・本郷
- 身体能力は高いけどメンタル面は弱かったのが、 作品を通じて、厳しい戦いを乗り越えるにつれて、ストライカーとしての逞しさを見せていくようになる北村
悲願のワールドカップ初出場を目指し、それぞれの想いを胸に戦っていく、特に日本代表選手たちの人間ドラマに、胸が熱くなったり、ときには、涙したりもしました。このあたりは、一度では語りつくないほどです。
サッカー描写に関しては、一部誤認などミスが見受けられる部分があったり、 若干16歳にしてずば抜けた技術と鋭い勝負勘を兼ね備えた鷹の存在はある意味トンデモかもしれないですが(それ言ったら、ビバカルのシーナの方がすごいですけどね)、サッカーマンガとしての全体的なバランスは、私の中でもっとも優れている部類に入れていい作品だと考えています。
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そしてもうひとつ、『Jドリーム』について取り上げたいのは、Jリーグ創設初期が舞台として描かれていて、鷹が浦和レッズに所属していたということですね~(笑
まぁ、浦和うんぬんの話はいいとして(余計なことまで思い出してしまうので)、Jリーグのクラブは実名ですし、当時のユニフォームとか、実名選手っぽいキャラが登場したりと、いろいろ読んでいて懐かしいです。"代表>クラブ"の風潮が強いのは、ちょっと悲しいところではあるんですけどね(選手にとって代表は"誇り"ですし、当時の時代背景からしても当然の流れとも言えますが・・・)。
人間ドラマの面でも、"譲り葉"になぞらえた、Jリーグ開幕、ワールドカップ予選に臨む前に、試合中の怪我によって現役を余儀なくされた本橋譲二と、彼と重なり入れ替わるように頭角を現す鷹の話は、本当に泣けます。
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『Jドリーム』は、当時週刊少年マガジンに同時期に掲載されていた、『シュート!』のような大ヒットした作品ではないかもしれませんが、王道的な少年スポーツマンガの熱さを『シュート!』とはまた違った、"いぶし銀"的な輝きがあると思います。
現在では、日本がワールドカップに出場することは、わりと日常的なこととして捉えられている感もありますが、"まだワールドカップの出場自体が夢であった時代の物語"として、個人的には、読む意義のある作品ではないかと思っています。
リアル日本代表も、ワールドカップ最終予選の最後の戦いを間近に迫っていることですし、『Jドリーム』(無印・完全燃焼編)、または、『俺達のフィールド』なんかもいいですよね、ワールドカップ予選を戦うサッカーマンガを読んで、気分を高めてみるというのはいかがでしょうか?
・・・と、『Jドリーム』を読み返したのは、本当にたまたまな出来事だったりしますが、最後はキレイにまとめることができたかな?(笑
■ 作品データ
掲載 : 週刊少年マガジン(1992年~1995年)
コミック : 全14巻
文庫版 : 全7巻
その他 : 講談社プラチナコミックス版もあり
最近読んだ未読の旧作サッカーマンガの雑感
2008.05.25 21:57
私は、サッカーマンガのブログの管理人ではありますが、まだ読んだことのない作品は、実は結構あったりします(苦笑
そんなまだ未読だった作品、または、読んだことはあるけど知名度の低そうな作品を中心に、サッカーマンガのまとめページを作るためのベース作りをかねて、このカテゴリーでは取り上げて行きたいと思います。
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■ 『El Vient』 / 伊藤和史
高校入学前の春休みを利用し、アルゼンチンにサッカー留学へやって来た、主人公・香山慎吾は、現地に在住する叔父と一緒に空き地でボールを蹴っていたところを、ソフィアという名の少女に見初められて、草サッカーの試合に誘われます。
いざ、その場所に行ってみると、汚いファールしかしない相手に腹を立て、ぶん殴っているリカルドという男がいました。
そのリカルドは、前日、慎吾がサッカーを見に行った帰りがけに寄った、売店の売り子をしていて、勝手に財布を奪い、お金を抜き取った(必要な代金のみではあるのだけれど)経緯もあり、お互いに印象は良くない様子。
慎吾は、実力で千葉のベストイレブンに選ばれるほどの実力の持ち主、だが、リカルドは叔父曰く、慎吾と同じ年齢だがプロの近いサッカーセンスはリカルドの方が上という。
このふたりが2トップを組むという、この草サッカーの試合の行方はどうなっていきますか・・・。
というのが、序盤の簡単なあらすじ。
作者の伊藤和史先生が、「『El Vient(エル・ビエント)』はサッカーマンガではありません。サッカーを題材にした青春ドラマです。」とおっしゃるように、サッカーを通じた慎吾とリカルドの友情物語というニュアンスが一番正しいところかと思います。
ですが、そのパーセンテージはさておき、たいていのサッカーマンガには、人間ドラマの要素が含まれていますし、私はサッカーマンガという定義でも問題ないと判断します。というか、そうしないと、サッカーマンガと呼んでいい作品の数が減ってしまいますし(笑
論理的な根拠もない、自分の感覚的なものですが、連載されていた月刊少年マガジンらしい作品だなぁと思いました。
ぶっちゃけ、あんまり似てないですが、冒頭部分に、主人公がマラドーナやカニージャの所属するボカの試合を観戦する描写もあったり(けど、カニージャが1カットだけ、しかも後姿で小さく描かれてたのが悲しかったですよ)。
単行本 : 全1巻
掲載 : 月刊少年マガジン1996年11月号~1997年2月号
■ 『カズ撃ちゃ当たる!! 1』 / 荒井清和
タイトル名から想像できるように、カズを中心・・・というか、Jリーグ開幕直後あたりのヴェルディ系のネタが多い4コママンガです。
荒井清和先生という言えば、私はファミ通のイメージが強いのですが、あの絵柄やノリがそのままJリーグの4コママンガになっているという感じです。一部例外もありますが、選手は結構似てると思います。
面白いかどうかってのは、人それぞれ笑いのツボ感じ方が違うので、何とも言えませんが(個人的には、微妙なのが多いけど、中にはかなり笑ったものもありました)、村山文夫先生や中本哲哉先生の作品にあるような"毒気"のあるネタはありません。
出版社 : 竹書房
単行本 : 全2巻
掲載 : 月刊パロ野球ニュース(1993年6月号~1995年1月号)、月刊まんがくらぶ(1994年3月号~1995年2月号)
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■ 『流星のストライカー 1』 / 秋月めぐる
暴行・傷害、窃盗・・・
素行面には、大きな問題があるものの、ストライカーとしては高いポテンシャルを秘めている、主人公の織田流星が、ワールドユース(現U-20ワールドカップ)の代表候補して、追加召集され、テストマッチのペルー戦でデビューを果たす・・・といった感じで始まっていきます。
形としては、強烈な個性を持った人物が組織・規律を重視するチームの中に入っていくが、監督からはあまり好まれない・・・みたいな、よく見られるパターンかと思います。
主人公たちの年代は、谷間の世代(時系列的には、アテネ世代と重なる時期に連載されていた)で、優れた個の力には劣るかもしれないけど、言われたことは忠実にこなし、よくトレーニングされた組織サッカーを披露するも、言われたこと以外のことはできないといった、"良くも悪くも日本らしい部分"というのがよく描かれていると思います。
全2巻のうち1巻しか読んでいないので、作品として結論付けるのは尚早ではありますが・・・
サッカー描写はきちんとしていて、決して嫌いな作品ではないのだけれど、なんかこう、ぐあぁーーーとくるような気持ちの高ぶりというのは、強く来なかったかなぁと(あまりに、感覚的すぎる書き方で申し訳ないのですが)。
物の核心は突いているけど、盛り上がりのパワーが足りないとでもいいましょうか、組織の型を破る主人公を描きたいのに、作品自体がその殻を破りきれてないという印象を受けてしまいました。
それは、あくまで1巻を読んだだけの印象で、ストーリー的にも、ここからが盛り上がっていくところでもあるので、なるべく早いうちに続きを読んでみたいと思います。言葉だけで見ると、微妙なようにも感じられてしまうかもしれませんが、個人的には好きですよ(笑
出版社 : 秋田書店
単行本 : 全2巻
掲載 : 月刊少年チャンピオン2001年10月号~2002年1月号
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とまぁ、こんな感じで、不定期にはなりますが、サッカーマンガのブログとしてやっている以上は、もっと多くの作品を取り上げて、もっといろんな作品を知ってもらえるように、このカテゴリーの記事をもっとアップしていければなぁと思います。
とりあえず、今回取り上げたものは、全部今週末初めて読んだものです。
初めて読んだけど記事にできなかった作品は、他にもあるのですが、時間との折り合いを見て、少しずつでも取り上げていければ・・・。