『1/11 じゅういちぶんのいち 1』 / 中村尚儁
2010.12.08 00:20
※ネタバレとなりうる要素を含んでいる可能性がございますのでご注意ください
厳密に言うとサッカーマンガとは言い切れないかもしれないのですが、サッカーストーリーとして優れたドラマを魅せてくれる・・・『1/11 じゅういちぶんのいち』の1巻を読んだ感想です。
自分の才能に限界を感じ、
中学卒業とともにサッカーを辞めた安藤ソラ。
しかし、日本女子代表・若宮四季との出会いが、
心の奥底に眠っていた何かを衝き動かした――。
清新な筆致で描かれる、 ソラを巡る様々な人間模様――
『1/11 じゅういちぶんのいち』は、一人のサッカー選手・安藤ソラを軸に、様々な登場人物たちにスポットを当て、1話読み切り型の物語を描いていくというスタイルの作品です。
1巻では、3つの物語が掲載されていて・・・
#1では、ソラと出会いがきっかけでサッカー女子日本代表にまでなった若宮四季とのエピソードを(名目上、四季の話と紹介されてますが、ソラの物語である要素も大きい)。
#2では、両親に内緒でサッカー部のマネージャーを務めていた篠森仁菜のエピソード。
#3では、イケメンと呼ばれるようになって、泥臭くひたむきに頑張ることから目を背けるようになってしまった越川凛哉のエピソードが描かれていきます。
作品としては、スポーツとしてのサッカー描写が面白いというよりは、紹介文にもあります通り、一人のサッカー選手・安藤ソラを巡る人間ドラマを描いた物語が面白いというタイプのものです。
特に#2~#3は、まったくと言っていいほどサッカーをしていなかったりするのですが、人間ドラマを丁寧に描いていく物語の完成度は非常に高く、個人的にはものすごいレベルで気に入ってしまっています。
私個人の感覚で言うと、『さよならフットボール』のような登場人物がキラキラ輝いているさわやかで清々しい青春劇の要素と、『ANGEL VOICE』のようにひとつひとつのエピソードをじっくりと丁寧に描いていこうとする部分、この両者の良さをうまくミックスしたような面白さかなと感じています。
収録されている3つのエピソード、それぞれ素晴らしくて泣けてしまう話ばかりでどれも好きなんですけど、個人的に一番好きなのは1話のソラと四季の話ですね。
まぁ、私が何を言うよりも、ご自身で読んでもらったほうが早いかなとも思うので、まだ作品にまったく触れたことのないという方は、1巻#1のまるまる試し読みがあるのでそれをを読んでみてください。
なんかものすごく手を抜いたことをしてしまってる感があるのですが(苦笑)、いざ単行本の感想記事を書こうと言っても、あの記事で自分の思ったことは全力で書き切ってしまっているので(当時書いた作品の方向性についての予想の部分は外れてしまってますがw)、新たに書き足すようなこともないかなと(笑
もし試し読みを読んで、私と同じような印象を抱いたなら、きっと“買い”だと思います(笑
単行本が発売されて、3つのエピソードを再度読み返しましたが、やっぱり泣けました。何度読んでも泣けます。 中村先生って、本当良い物語を描ける方だなぁ。改めて、自分がこの作品のことがすごく好きであることを実感させられました。
物語はソラを軸に様々な登場人物をスポットを当てて描かれていくものですが、逆を言うとそれは、周囲の人物を描くことで作品の真の主人公であるソラのサッカー人生の欠片を見せている部分もあります。今後様々な人物の物語を積み重ねていくことによって、ソラのサッカー人生の全体像がどのように浮かび上がってくるのか、このあたりも楽しみにしていきたいです。
#3の連載が掲載されてから2週間程度で単行本化、しかも、すぐさまジャンプスクエア本誌に読み切りとして登場したりしていることからも期待の高さが窺える『1/11 じゅういちぶんのいち』。
サッカー描写がメインである作品が読みたいという方の需要を満たせるタイプの作品ではないのですが、人間ドラマを描く部分では珠玉の輝きを放っている作品だと思うので、もし興味があれば一度試し読みからでもチェックし見ていただければなと思います。
※
それと、1巻には、『1/11 じゅういちぶんのいち』本編以外にも、アフタヌーン四季賞の佳作作品となった、『エロメガネ男子×女子』も特別収録されています。
そのレンズを通して見るとその着衣のみが透けて見えるという夢のようなメガネを開発した主人公の話を描いたものなのですが、オチが面白かったです。『エロメガネ男子』と『エロメガネ女子』それぞれが合わさって2段オチのような仕様になっています。
~女子の方は、投稿用に急遽描き足したらしいのですが、むしろこれがあってこそ、相乗効果で何倍も面白くなっているなと思いました。中村先生って、こういうネタの話も描けるんですね(あ、でも、物語の構成力という意味では、らしさを発揮しているとも言えるのかな)。
あとは、『1/11 じゅういちぶんのいち』を含めたボツイラストなども掲載されていて、こちらも良かったなぁと思います。というか、ボツになったバージョンのカバーが私は欲しいです・・・。
※
続く2巻では、(記事を書いてる段階では)連載されたものがすべて単行本に収められているため、この先どんな話が描かれるのかはまったく分かりません。
ただ、次もきっと素晴らしいドラマを描いてくれるということは確信しているので、2巻ではどんな人物にスポットが当てられていくのか、続きを読んでいくのが楽しみです。
ちなみに、ジャンプスクエア2011年1月号に掲載されている読み切りは、ソラがプロになった時の話で、長く2ndGK生活を送るキャラが主人公となっています。これまでよりサッカー度が高く、こちらはサッカーファンの方にお勧めしやすい仕上がりになってると思うので、よろしければ単行本と併せてチェックしてみてください。
■ 掲載
#1~#3
ジャンプSQ.19 2010年6/20号~12/19号
越川凛哉の物語まで収録
タグ : 1/11
『GIANT KILLING 17』 / ツジトモ(原案・取材協力:綱本将也)
2010.10.30 22:18
※ネタバレとなりうる要素も含んでいますのでご注意ください
いろいろとあって、感想書くのは3巻ぶりになってしまったという・・・(苦笑
『GIANT KILLING』17巻を読んだ感想です。
内容の細かい部分については、毎週連載の感想を書いているのでそちらを読んでもらうとして、あまり気負わず気楽にサクサクとまとめてみたいと思います。
・・・
ETUは、現在夏季キャンプ中。
キャンプの2日目、港経済大学との練習試合に臨むETUですが、その練習試合は、(ETUの選手たちが)本来の自分のポジションでプレーすることができないという条件がつけられたもの。
選手たちは慣れないポジションと、弱点を的確に突いてくる“ミスターT”率いる港経大相手に苦戦を強いられます。
キャンプの目的は、あくまでチーム力の向上であり、達海の課したテーマを理解することであって、必ずしも試合への勝利は義務付けられたものではありません。・・・が、しかし、ETUの選手たちにはプロとしての意地もあります(負けたら屈辱的な写真を取られることにもなるw)。
果たして、この練習試合の行方は一体どうなっていきますか・・・といったところから17巻は始まっていきます。
※
17巻の内容は、練習時代を含めた夏季キャンプの総仕上げ、そして、リーグ戦が再開し第18節FC札幌戦の模様も描かれていきます。
単行本として17巻を読んだ感想として、一番強く思ったこと、主張しておきたいことは、読んでいてETUというサッカークラブことのがますます好きになってもっともっと応援したいって気持ちにさせられたなということですね。
17巻だけなく16巻後半から続いているものではありますが、夏季キャンプを通じて描かれたものの数々は、ETUにとっても、作品を読む自分としても、本当にいろんな意味で充実していたなと思います。
タッツミー流に言うとETUに新しいお友達が加わったり、キャラクター同士の笑えるやり取りなどジャイキリらしい明るく楽しい描写がたくさん見られたかと思ったら(ツジトモ先生の言い回しのセンスがまた絶妙w)、ベテラン選手から若い選手へアドバイスを送るといったニヤリとさせてくれる描写もあったりで・・・
それだけではありません。
達海の課したキャンプのテーマを探るため、各々がいろいろ考えて取り組んでいく中で、特にグッとさせてくれるものがあったのは、ミスターETUこと村越の描写でした。
村越というと、どうしてもこれまで悲壮感が漂いすぎるほどに、何かを自分で背負い込んでしまっていた部分があったんですけど、ついに、自分を信じ、周囲を信じて、後ろ髪引かれることなく、恐れず前へと突き進んで行く姿が見られるようになっていきます・・・!
その結果、相手の厳しいマークを受けながらもパワフルに突破していき、相手GKを手を弾くほどの豪快なミドルシュートを決めた村越のシーンは、自らを縛り付けていたものから解き放たれた、本当の意味でピッチの中で自由を得られるきっかけとなる描写という点でも(自分の中の“答え”を見つけ出すことができた!)胸を熱くさせられた場面でしたね。
こうして夏季キャンプが終わって、シーズン後半戦が始まろうとしていくわけですが、そこに向けた描写もまた良かったなと思いました。
14巻後半~16巻前半にかけて、ETUの辛く悲しい過去話が描かれてきましたが、そこから夏季キャンプのエピソードを通じてETUの現在、そして新しい未来へと向かってチームがひとつにまとまり動き出して行く・・・。
そのラストピースとなるのが、笠野さんだったんですよね。
確かにETUの暗黒時代を招いた要因の中に笠野さんの存在はかなりあると思う。けど、過去の痛みを嫌ってほど知っている笠野さんは、きっと同じ過ちは繰り返さないと思うし、達海が信じる笠野さんことを自分も信じてみたいと思うのです。
過去編のエピソードって、辛く悲しい話ですし、個人的にはあまり振り返りたくない部分もあるんですけど・・・、でもこうしてまとめて振り返ってみると、現在に戻ってきた夏季キャンプ以降の話は、そんな過去編があったからこそ効いているところがすごくあるんですよね。
過去編から夏季キャンプの話は、すべてがつながっていて、それらをまとめて読み切ることによって意味を成す。暗黒時代があるからこそ、現在の明るく楽しくあるチーム状況、新しい未来へ進もうとしていくETUの姿にさらなる強い愛情を抱いてしまう部分があるのかなと。
ま~、言葉にするとちょっと照れくさい部分もありますが・・・(苦笑
けど、とにかく、これらの一連の話の流れは、マンガの世界ではありますが、ETUというサッカークラブに対する感情移入度をより高めてくれた、自分にとってはそんなエピソードでした。
そして、17巻では、リーグ後半戦が始まり、18節のFC札幌戦の様子も描かれていきます。
そこで見せてくれたのは、キャンプを通じてまたひとつ成長したETUの選手たちの姿でした。
怪我の選手(杉江)もいましたが、シーズン前半戦終了時のレギュラーメンバーから3人を入れ替え、今季試合経験のない(限りなく少ない)選手を加えてFC札幌戦に臨む達海。
そんな達海の采配に対して、不快感を示す札幌の監督、懸念を示すETUの番記者・・・。彼らにそれ見たことかと言わせたいかのように、相手のシュートのコースが変わって不運な形で先制点を奪われるETU。それは、リーグ開幕戦の大敗を思い起こさせるような展開でもありますが・・・
現在のETUは、あの時とは違うのです!
先制されても下を向くことなく前向きに戦い試合の流れを引き寄せていく・・・、ここからの展開は、読んでいてスカッとさせてくれて、テンションが上がってきます。
ベンチ外の選手たちはチームの勝利のためボードを掲げピッチの選手たちにメッセージを送り(今回だけは、特別にベンチ外も含めて選手全員を帯同させる大盤振る舞い)、試合序盤こそ不安定なプレーを見せていたけど、シーズン前半戦ピッチ上で悔しい思いをした亀井が強気のプレーで奮闘・・・
そしてここでも私の胸を一番熱くさせてくれたのは、ミスターETU・村越茂幸でした。
亀井のインターセプトから王子へとつなぎ、“余裕を持って”状況を見極めていた王子は、仲間たちを信じ切って自らのポジションを空けスルリと上がってきた村越(これも先程も書いた通りキャンプの成果のひとつ!)にラストパスを送り・・・
ズッドーンと同点となるミドルシュートを決める!
ゴール後、その場でただ無言で拳を突き上げる姿も含めて、この村越のゴールシーンは最高でした。 もう、1巻のうちに2つもコシさんの豪快ミドルが見られて、それだけでも17巻は大満足といったものです。
・・・ということで、17巻も面白かったです。
久々に全編に渡って心から楽しんで読んでいける、現在のジャイキリらしさが存分に堪能できる巻だったと思います。
※
明るく楽しく笑える展開は本編ばかりはありません・・・
ということで、単行本描き下ろしカットの部分でも存分に楽しませてもらいました。
個人的には、『中井くん物語』がツボでした。
1~3まであったのは初めての試みでしたし、見た目のギャップに反して生意気キャラだった中井(いづれはETUへ加入を!)のいきさつを描いた話に笑ってしまいました。漫画のネタだからこそ、許される部分もありますけどね。
あとは、子供たちに見られたくない姿を見られてしまった松ちゃんとかも・・・ね?(笑
他には、冒頭のETUグッズボツ企画シリーズも面白かったです。
こういうのを見てると、本当ツジトモ先生のネタの引き出しの多さに脱帽させられますね。18巻では何を見せてくれるのかまた楽しみです。
毎回恒例の初版限定ステッカーは、今回は1巻と同じデザインのETUステッカーなので画像は載せません。
※
さて、続く18巻では、FC札幌戦の続きが描かれていきます。
果たして、村越のゴールで同点に追いついたETUは、その勢いで逆転することができるのでしょうか。
17巻では、いろいろと充実したものを見せてくれましたが、18巻でもそれに負けないぐらい心揺さぶってくれる展開が待ち受けているので、単行本での描き下ろし部分も含めてまた発売が楽しみです。
■ 掲載
#158~#167
週刊モーニング2010年19号~29号
ETUvs札幌、村越が同点ミドルを決めるところまで収録
タグ : GIANT-KILLING
『GIANT KILLING 14』 / ツジトモ 原案・取材協力:綱本将也
2010.04.30 13:52
※ネタバレとなりうる要素を含んでいますのでご注意ください
※連載を読んだ当時の感想を読みたい方は、今週の『GIANT KILLING』アーカイブを辿ってみて下さい。
4月からNHKBSでアニメが始まり、さならなる飛躍が期待される、『GIANT KILLING』14巻の感想です。
真夏のお笑いの祭典・オールスターゲーム。
13巻では前座のマスコットたちによるミニゲームで大いに盛り上がり、本番である日本人選抜vs外国人選抜もキックオフ。
名古屋グランパレスのブラジルトリオなどの過去に対戦した懐かしい顔があったり、モンテビア山形の監督・佐倉や40歳を過ぎてなお現役、日本の至宝・ケン様こと古内健など、新キャラたちも抜群の存在感を見せていました。
14巻では、オールスターゲームの残りの部分、そして、リーグ戦はひとまずお休みということで、リーグ中断期間のエピソードへと話は移っていきます。
※
14巻の見どころはと言いますと、1話分しかありませんがさりげに重要な描写もあるオールスターの残りの話、そして、いつも楽しいエピソードばかりとは限らない・・・、石浜の移籍話、そしてそして、暗黒時代に迎えることになっていった10年前のETUの話となっていきます。
オールスターの話は、13巻のラストから一気に話は飛び、いつの間にか後半だけでハットトリックを達成しMVPを獲得していたケン様の素敵な笑顔が印象的でしたが、その後、達海と東京Vの平泉とのやり取りはシリアスな気持ちにさせられるものでした。
元々怪我を抱えながらプレーしている、東京ヴィクトリーのエース・持田を自分の過去と重ね合わせてしまったのか、平泉を追及する達海に対して・・・
「ピッチに立つのが生き甲斐の人間を
檻に閉じ込めておくのがお前の思いやりか?
これは持田がどう生きるかという話だ……
他人がとやかく言える問題ではない
その上我々がいるのはプロの世界だ
ここで私にできるのは……
プロとしての持田の覚悟に覚悟ももって応えるだけだよ
お前もそうだったんだろう? 達海
お前も足に異常を抱えたまま
両足が壊れるまで走り抜けたんだろう?」
と答える平泉の言葉には、何とも言えない切なさを覚えました。
このへんは、連載当時の雑感でも書いたと思うのですが、怪我や病気などを抱えた選手に対して無理をさせすぎず、選手生命を守ることを考える、はやり焦る選手の気持ちにストップをかけるのも監督の仕事のひとつなのでは・・・と思うのですが、対象がもはやその限界を越えつつある持田ということを思うと、平泉も苦渋の思いで持田の覚悟に応えているのだろう・・・。そう思うと、やはり切なくやるせない気持ちになってくる。
このシーンは、先の展開にもつながっていく部分もあり、その先の展開を読んでこのシーンを振り返ると、また違った深みを感じることができました。
※
出会いばかりでなく別れもある・・・
ETUからヴァンガード甲府へと移籍を決意した石浜のエピソードもいろいろ思うところありました。
こう言っては失礼極まりないですが、試合にコンスタントに出場していた選手たちの中では、赤崎にボロクソ言われてしまったりなど、ちょっと心許ない部分もあった石浜。
そんな石浜だけど、私たちが応援するETUに対して愛情を示し、彼なりに懸命にプレーしていました。そんな仲間がETUを去ってしまうというのは・・・、やっぱり悲しいことだと言わざるを得ない。でも、決断したのは誰でもなく石浜本人。その気持ちは尊重してあげたいし、頑張れと言ってあげたいけど・・・完全にETUのファン視点で作品を読んでしまっている立場からすると、まぁ、いろいろ複雑です。
この石浜のエピソードを描くにあたっては、ETUは石浜を必要とし必死に説得するけれど、選手本位で物を考え石浜にかける達海の言葉の数々がやはり良かったですし、同期でサイドは違うけど同じポジションで仲の良い清川との描写も素晴らしかった(まさか、ハマ&キヨのここまで泣かされようとは!)、石浜の移籍に反発を見える選手たちに自らも移籍を決断してETUにやってきた最年長・緑川の言葉というのも重みがありました。
・・・そして何より、#131の後に2ページ分、モーニング本誌には掲載されず加筆された描写が、本当にさりげないと思うんですけど、その2ページ分の加筆が泣けました。
移籍した石浜がどうなってしまうのか、私には分かりませんが、シーズン後半の甲府戦は隅田川スタジアムで迎えることになります。
移籍した石浜が隅田川スタジアムに帰ってくる・・・
このシーンは絶対本編で描いてほしいと、私は願ってます。
※
そして、話はETUの過去へと映っていくわけですが・・・
話の鍵となっていくのが、津川会長という人物。
人情的な印象の強いETUの人々とは違って、ビジネスサイドの人で経営者としての感覚を持ち合わせている津川会長。
津川会長の経営者としての感覚は確かに大切なことだと思うんですけど、クラブへの愛情よりも自身の野心が強く感じられる津川会長の言動はあまり好きになれないというのが個人的な印象なのですが(野心の部分を強く感じるから、言動が詭弁にしか聞こえなくなってしまう)、このあたりの見方は結構分かれるところのようです。
『GIANT KILLING』という作品を今後語っていく上でも、10年前の出来事というのは、すごく大切な描写だと思うのですが、このあたりは15巻にも続いていきますし、すべてを描き切ったところで改めて考えてみたいです。
そんな中でも、らしさを垣間見られる、10年前の湘南戦での現役時代の達海のプレーは面白かったですね。
14巻は、特に13巻のオールスターとのギャップで、シリアスに話は展開されていきました。
明るく楽しい話の方が好きな人も多いかと思いますが、そうでない部分というのもひとつのサッカークラブの物語としてあって然るべきことだと思います。
・・・書く方としては、明るくノリがいい展開の方が感想を書き易くはあるんですけどね(苦笑
※
ここからは単行本ならではのおまけと言うことで、まずは毎回恒例の初版限定ステッカーから。
巻頭部分のおまけは、“パッカくんを探せ”です。
私は、たまたま視線を落とした先にパッカくんがいて、企画の趣旨そのものを堪能することはできなかったのですが(苦笑)、隅田川スタジアムのどこに誰がいるんだという全体像が分かりますし、リーグジャパンのマスコットたちがあちらこちらに散りばめられていて面白いものだったと思います。
それと、お話の間に挿入されるカットもいつもながらに面白かったです。
今回は、収録の内容上ちょっとシリアス色が強いものになっていますが、タンさんと有里のやつには楽しませていただきました(笑
15巻ではどんなものを見せてくれるのか楽しみです。
※
さて、続く15巻は、早くも5月21日の発売となります!
内容的には暗い過去を描いていくので、正直楽しみに・・・とは言えないのですが、むしろ連続の単行本発売で一気に突き進んだ方がいい部分なのかもしれません。
楽しい時もあればそうでない時もあるということで・・・
ETUの過去を、ただ静かに見守っていってほしいなと思います。
■ 掲載
#128~#137
週刊モーニング2009年39号~48号
10年前の東京ダービーが始まるところまで収録
タグ : GIANT-KILLING
『さよならフットボール 1』 / 新川直司
2010.02.27 00:35
※ネタバレとなりうる要素を含んでいますのでご注意ください
マガジン・イーノで掲載されているサッカー少女を主人公にした作品、『さよならフットボール』1巻の感想です。
体格に勝る男子と混ざりながらも、少女の夢は色褪せない。
誰よりも速く、誰よりも強く、誰よりも上手くなりたい――
14歳。恩田希の青春は、加速する!!
(作品帯より)
作品の概要を簡単に説明していくと・・・
中学校の一般(男子)サッカー部に所属しているサッカー少女・恩田希(おんだ のぞみ)の青春ストーリーを中心に描いていくものです。
女子は試合に出せないと念を押されているにもかかわらず、どうしても新人戦の1回戦に出たいと強く願う希。そのために、あれこれ画策してみたり、懸命に練習に励んでいくのですが・・・、希はなぜそこまでして試合に出たいと望んでいるのかというその背景部分の描写、そして希の願いは叶えられるのか・・・といったところが、1巻の見どころになっていきます。
※
私の作品を読んだ感想としましては、サッカー少女を主人公とした青春ストーリーという視点から見てなかなか面白く描かれているのではないかと感じました。
私がそう感じる理由は、新人戦の1回戦だけでもいいから試合に出たいと強く望む希の心理描写がサッカーの部分を決しておざなりせず、きちんと丁寧に描いているところにあるのかなと思います。そして、恩田希という主人公の少女のキャラもとても魅力的だと私は感じてます。
サッカー部分でのキーワードとなってくるのが、中学生以降になると男女の差が顕著に表れてくる“フィジカル”の差。
希は、かつて自分の子分格で不器用でサッカーは下手だけど自分を慕っていたナメックと呼ばれる少年と数年ぶりに再会します。そのナメックは、数年の空白の間に身体が大きく成長し、希たちの学校と新人戦の1回戦で対戦することになる江上西中のキャプテンとなっていました。
そのナメックが再会した希に言い放った言葉が・・・
「サッカーはフィジカルだ
身体のデカイ俺に女のお前が敵うわけがない
お前に何が出来る? その身体で何が出来る?
男というだけで俺は―― お前を超えたレベルにいるんだ」
このナメックの言葉をそのままストレートに受け取ってはいけないのですが・・・(このあたりは読んでいけば分かります)、この言葉が希に火をつけ、是が非でもナメックのいるチームと対戦できる唯一のチャンスである新人戦の1回戦に出たいと強く願うようになります。
(まあ、ナメックの言葉に火がついたと言っても、決して憎んでいるということではなく、むしろとても気にかけている。ナメックの方も、自分がかつて慕った希のことを気にかけている。強気になってしまったのは、自分がキャプテンで後輩が見てる手前といった部分もあったりして・・・
また、希のチームメイトたちも、希に想いを寄せいている描写もあり、このあたりは別の意味で14歳という年齢の青春ストーリーを描いていっているといった要素も、今後の見どころになっていくかもしれません。)
で、この機会が唯一のチャンスであると希が考えているのは、希自身がサッカーにはフィジカルも大切な要素であることを十分自覚していて、今このチャンスを逃してしまったら、年齢的に開く一方であるフィジカルの差が決定的に開き、永遠に真っ向勝負できる機会がなってしまうことを知っているからなんです。
希が自身のフィジカルのことを理解している心理描写というのが作中何度か描かれていくですが・・・、読んでいて、ものすごく切なくなってくるんですよね。自分の現実を理解して受け入れるというのは、やはり切ないものがあります。
男子の中に女子が混じってという描写はこれまでのサッカーマンガの中にもありますが、決定的な男女間のフィジカルの差というのをここまで真っ向から描いたものというのは今まで記憶になく、テーマとしては面白いのではないかなと思います。
※
そして、私がこの作品を面白いなって思わせてくれるのは、何といっても希という女の子が魅力的に描かれているからだと思っています。
試合で使ってもらうためあらゆる手段を駆使して監督に媚を売ろうとしてみたかと思えば、サッカーに関しては誰よりも真摯に練習に取り組む姿勢を見せたり、フットサルで自分を野次った相手にカントナキックをかます気性の荒さもあれば、先程描いた女子であることのコンプレックスを感じる描写もある。
サッカーをしている時の表情もすごくいいと思いますし、まぁ、弟と強引にすりかわってピッチに立つというやり方は感心しませんが、そんな茶目っ気たっぷりで豊かな表情を見せる希の姿を見てもらいたいなーと思います(笑
※
サッカー描写に関しては、先程書いた男女間をフィジカルの差についてのテーマで、ちょこちょこ小ネタ系のものもあります。作画面では一級品の上手さではないかもしれないですが、余分なセリフは極力カットしてスピーディーに展開させたりなど見せ方としては十分及第点レベルにあるのではないかと思います。
作品主体としては、繰り返しますが、一般(男子)の中学校のサッカー部に所属しているサッカー少女・恩田希(おんだ のぞみ)の青春ストーリーを中心に描いていくものなので、そういった視点では私にとっては十分面白いと思える作品でした。この作品については、連載雑感でも1~2話のことは結構書いているので、そちらも併せて読んでいただければと思います。
サッカー少女を主人公とする作品が読んでみたい方には、個人的にお薦めしてみたいものなので、もし興味があればお手にとっていて頂ければと思います。
※
さて、続く2巻では、強引にピッチへと降り立った希。
ようやく念願かなってナメックと対峙することになっていきますが果たして・・・?
この記事を書いてる時点(2月27日)では、単行本と連載とのタイムラグは一切ないので、もし1巻を読んで興味を持ったなら現在発売中のマガジン・イーノをチェックしていてはいかがでしょうか。
2巻は、今秋発売予定とのことで、すでに最終巻であることが告知されていますが(新川先生自身が最初から全2巻ぐらいの構成で考えているものだと発言してらっしゃいます)、最後はどんな結末を迎えることになるのか。私も先の展開は知らないので、続きを読んでいくのを楽しみにしています。
■ 掲載
第1話~第4話
マガジン・イーノ02(月刊少年マガジン2009年7月号増刊)~05(月刊少年マガジン2010年1月号増刊)
江上西戦、弟・順平と強引にすりかわって後半のピッチに登場するところまで収録
タグ : さよならフットボール
今週の『GIANT KILLING』#148
2010.01.28 23:15
※後でもう少し手を加えると思いますが(というか、もう少し書きたい)、ひとまずこれでアップします。
ジャイキリ13巻は、現在発売中です。
13巻の感想記事はこちらより。
ジャイキリアニメの放送時間について、すでにNHKのジャイキリアニメ公式サイトで明らかにされていますが、ここでも明記しておこうと思います。
放送開始日 : 2010年4月4日(日)~全26話
NHK BS2 : 毎週日曜午後11時~11時25分
NHK BShi : 毎週日曜午前9時25分~9時50分
サイドバーのジャイキリコーナーにも載せていますが、また放送日が近くなったら告知したいと思います。
『GIANT KILLING 13』 / ツジトモ(原作・取材協力:綱本将也)
2010.01.24 11:23
※ネタバレとなりうる要素を含んでいますのでご注意ください
※連載を読んだ当時の感想を読みたい方は、今週の『GIANT KILLING』アーカイブを辿ってみて下さい。
アニメ化が決まり、今後のさらに注目度が高まっていくことが期待される、『GIANT KILLING』13巻の感想です。
リーグ戦第17節、東京ヴィクトリーvsETUの東京ダービー。
試合は、前半の早い時間帯に椿がミドルシュートを決めETUが先制。その後もETUが優勢に試合を進めるものの、前半の終盤あたりから徐々に東京Vがリズムをつかみ始め、後半、怪我でベンチスタートとなっていたエース・持田がピッチに投入されると、さらにその勢いを増しETUゴールを脅かしていく東京V。
ここまで、なんとか1点のリードしている状況ですが、果たしてETUはこのまま1点差を守りきることができるのかといったところから13巻は始まっていきます。
※
13巻は、前半部分は東京ダービーのクライマックス、後半部分はいったんリーグ戦は中断と言うことで、オフ期間のお話ということになっていきます。
全体を読んだ感想を言いますと、「やっぱりジャイキリは面白いな!」ということですね!
毎週連載を読んでいますが、単行本でまとめて読むとまた違った面白さがあります。
東京ダービーについては、最終的に勝てなかったどころかかろうじて勝ち点1を拾うという結果だったので、ETUサポ的な視点から読んでしまう私としては最高に胸が熱くなるということはなかったですが・・・
敵であっても味方であっても、選手、監督、サポーター・・・それぞれがそれぞれの思いがあって、それらが絡み合いながら物語が構築されていくところは、いつもながら魅力的だなと思いました。
今回は何度もカッコいいところを見せ同点ゴールも決めた哀れなミックだとか、有力候補とされながらも代表の監督になれなかった平泉の話、前年よりチームは変わったとはいえ依然として東京Vとの差を痛感させられるサポたちの思い、サポーターたちの対立など・・・。表情を撮ることに執念を燃やす、カメラマンの久堂もいい味を出してると思いますし小さな脇役まで、それぞれがジャイキリワールドをイキイキと暮らしてるなと思います。
語りたいことはいっぱいあるけど、単行本の感想でそれをやっていると本当にキリがなくなってしまうので、そのあたりは、連載当時の感想を書いた過去ログを読んでいただければと思います。
その中で、ふたつ取り上げていくとすると、まずひとつは持田のもはやホラーの領域まで達している凄まじい勝利への執念。
なぜ持田はそこまで勝利に執着するのか。
それは13巻では語られることはないですが、#119で右足に手を触れるシーンは、その理由を示す象徴的なシーンだと思います。
私個人的には、ひたすらに勝利(結果)だけを追い求めるよりは、純粋に見ていて面白い内容のサッカーを目指すことを好みます。ですが、持田の勝利に対する執念、その言動の背景は何からくるのかというのを考えながら読んでいると、ハッとされられるものがありました(だからと言って、私の考えの根本が変わるわけはないのですが)。
口は悪いかもしれないけど、その言動はしっかりとチームの勝利のために向けられていて、それもまず自分自身が動いているから誰も文句なんか言えないし、説得力が出てくるものだと思います。
まぁ、とにかく、12巻の終盤から続いた“持田劇場”はとにかく圧巻でしたね。
そしてもうひとつは、川崎戦でも見せていましたが、着実に精神面での成長を感じさせてくれる椿の描写ですね。
後半押されっぱなしのETUでしたが、ラストワンプレーで自ら前向きになってドリブルで仕掛け、ミートはしなかったけど最後は気持ちでシュートまで持って行ったプレーはちょっと熱くさせてくれました。
この試合で持田のメンタリティに触れたことでさらなる刺激を受けた椿。これがシーズン後半戦でどう活きてくるのか、さらなる成長を見ていくのが楽しみです。
※
そして、リーグ戦前半が終了し、一時の中断期間に入り・・・
ETUの胸スポンサーでもある大江戸通運の企業ポスター撮影のエピソードも興味深かったですが、やはりメインとなるのは、真夏の祭典・オールスターゲームでしょう!
これもまた語りつくせないほどに面白い!
ひたすらに楽しすぎる!(笑
特に、前座として描かれたリーグジャパン各クラブのマスコットたちによるドリームマッチは、読んだ誰もが笑いをこらえ切れなかったのではないかと思います!
名古屋グランパレスのマスコット・シャッチーが全力疾走するその姿と、そのシャッチーを華麗にスライディングで止めたかと思いきや、2枚目のイエローでレッドカードを受け退場という、美味しいところをひとりでかっさらっていた我らがパッカ君には最高に笑わせてもらいました。
連載であれ読んだ当時、本当に息ができなくなるほど笑ったもんなぁ。
ちなみに、毎週連載の感想書いていますが、今でもあの回(#124)が一番のアクセス数を記録しています。それが、すべてを物語っているんじゃないかなと(笑
そして、本物のオールスターゲームの方も、名古屋のブラジルトリオや大阪の志村や窪田など、これまで登場した懐かしのキャラたちが登場したり、新キャラも登場したりで存分に楽しませてもらいました。もうみんなキャラが濃すぎだよ!
それらもまたいちいちツッコんでられないので(この面子の中だと夏木でさえも普通に見えてしまうもんねw)、そのへんも連載当時に書いた記事を読んでいただければと思います。
私的には、40歳を過ぎても未だ現役、有里いわく、生ける伝説で日本の至宝・ケン様の放つオーラが素敵すぎてやられましたね!
あともうひとりは、モンテビア山形の監督でもある佐倉(サックラー)。
あらゆる面で某サッカーマンガのキャラを思われるサックラーですが、今回はタッツミーとコンビを組んでオールスターを戦うという形ですが、シーズン後半になればお互いライバル同士。
サッカー観が似ているという両者が、リーグ後半で対戦するところはきっと作中でも描かれていくところになると思われるのでリーグ戦での再会が楽しみです。
オールスターゲームの話は(14巻にも続いていきますけど)、これまでのジャイキリの中でも、最も楽しくて笑えるエピソードだったのではないでしょうか。ちょっとした余興的なものなはずなのに、これだけ面白いものを作ってくるとは・・・、ツジトモ先生恐るべしです。こういうみんなが純粋に楽しめる話はいいと思います。今回は、これだけで十分にお腹いっぱいになれました。
※
毎回個例の初版限定ステッカーは、“かっこいいパッカ君”ステッカーです。
本当にカッコよすぎてびっくりしたわ!
パッカ君、カバー裏でもミスターETUを尊敬していると言ってますし、オールスターでの村越が中に入ってると観客に思わせてしまうほどのプレースタイルにも納得ですね。
あと、巻頭のおまけページには、リーグジャパン1部所属のマスコットたちのリストが描かれていました。こういうのは嬉しいですよね。
・・・やっぱり、ここでもシャッチーのビジュアルが群を抜いてるな(笑
※
さて、続く14巻では、オールスターゲームの決着、
そして、さらなるリーグ中断期間中のエピソードが描かれていきます。
ジャイキリ史上最高とも言える笑いを提供してくれた13巻とは違い、ここからシリアスな方向に話は進んで行きますが、これもETUのひとつの物語として読んでいってもらえればなと思います。
■ 掲載
#118~#127
週刊モーニング2009年28号~38号
オールスターゲーム、ケン様が華麗に同点ゴールを決めるところまで収録
タグ : GIANT-KILLING
『GIANT KILLING 12』 / ツジトモ 原案・取材協力:綱本将也
2009.10.24 18:14
※ネタバレとなりうる要素を含んでいますのでご注意ください
※連載を読んだ当時の感想を読みたい方は、今週の『GIANT KILLING』アーカイブから辿ってみてください。
私にとっては、今一番のサッカーマンガであり続ける、『GIANT KILLING』12巻の感想です。
リーグ戦はちょうど折り返し地点の第17節。
ETUvs東京の東京ダービー。
12巻では、ちょうど試合がキックオフされるところから始まっていきます。
※
12巻は、まるまる東京ダービーの様子が描かれています。
(決着はつきません)
今度こそ東京Vに勝ちたいと、アウェイでの戦いに臨むETUと、2年連続のリーグ戦王者ではあるけれど、今シーズンは不振にあえぐ東京V。
ETUサポ視点で読んでいると、(特に初見なら)段々とドキドキが止まらない展開になっていくと思います。
試合序盤は、椿が素晴らしいミドルシュートにより先制し、その後も達海のスカウティングの成果もあり、チーム全体が集中して守り、時折効果的なカウンターも発動させ、いいサッカーを見せていたETU。
しかし、東京Vも前半の終盤あたりから、攻撃の形を作り始め、さらに後半は選手同士の話し合いによってウィークポイントを解決し、徐々にETUのことを押し込んでいきます。
攻撃は、起点の王子が三雲のマンマークにより封じられ、その王子は達海の指示により、三雲をサイドへと引き連れ、空いた中央のスペースを椿の仕掛けで突破しようと試みるも、チームで対応され形を作らせてもらえず。
守備でも、バーを叩くシュートを打たれたりなど、さらに東京Vの勢いが増し、読む側のドキドキ度も増していきます(苦笑
「良い方向に回り始めたように見えるかもしれんがね……
我々が欲しいのは過程ではなく結果なのだよ
このスコアのまま笛が鳴れば我々の検討など意味をなさない」
と、名門クラブとして、あくまで結果を求める監督の平泉は、ここで怪我による欠場が続いていたエース・持田をピッチへと投入。
誰よりも鬼気迫る持田の勝利への欲求は、東京Vの選手たちにも刺激を与え、エースの復帰を待ち望んでいたホーム東京Vのサポーターたちも、持田に呼応しスタジアムのボルテージ上げていきます。
さらにさらに勢いを加速させETUを圧倒していく東京Vに、読む方のドキドキ度にさらに拍車をかけてくれます(苦笑
達海は達海で、監督として修正を試みようとしているのだけど、ここは東京Vでホーム、持田劇場と化していくスタジアムで、それを押し返していくのはなかなか難しい・・・。
でも、このあたりの、(達海の言葉を借りれば)「主導権をめぐる追いかけっこ」は、緊迫感があって、見応えあったと思います。
東京Vが押しているとはいえ、まだスコアは前半の1点のリードを守れている。
怪我明けでも、その実力を誇示する持田のマンマークを命じられた椿は、今後どう対峙していくのか。この東京ダービーの決着は、13巻でのお楽しみとなります。
※
個人的に、12巻で一番好きな場面は、椿のゴールシーンでした。
ツジトモ先生の描くゴールシーンは、本当、キレイなものが多いと思います。
(5巻の椿もそうですし、9巻の世良や10巻の堺なども、それに当てはまるでしょう・・・)
漫画の表現の手法についてよく分かってない私が言うのもアレなんですが、
ツジトモ先生のダイナミズムを感じさせてくれる構図やカメラワークのセンス、時間の空間の操り方が好きです。吸い込まれそうになるほど美しい・・・と、私は思います。
絵柄は正直言うと、5巻あたりのものが好きだったりするのですが、小さなコマでも選手の見分けがつきますし、細かい選手のポジションニングやプレー意識もしっかりしていて(#108の19ページ目の引いた画など)、そういった部分もツジトモ先生の描くサッカー描写の好きなところです。
あと、好きな場面というか、インパクトがあったのは・・・
やっぱり、持田のあれ?(笑
モーニング本誌で初めてカラーで見た時、素でビクッとなってしまいましたが、単行本のモノクロもモノクロなりの怖さがありますね・・・。
※
あとは、本編以外のお話。
まずは、毎度恒例となっている初版限定のステッカー。
非常にシンプルな出来となっています。
巻頭部分には、コータの作文が!
「いいかげんけっかを出してほしいです。」には笑ってしまいましたが、いつかETUの選手になれるように頑張ってほしいですね。
おまけカットは、レオナルドも地味に好きなのですが(そんなイメージがあるのでw)、ガミさんのを推しておきたいと思います。ガミさん、10巻までほとんど出番なかったのに、完全にポジションを確立しましたね(笑
※
さて、続く13巻も東京ダービーの続きが描かれていきます。
持田がピッチに登場し、さらに勢いを増していく東京ヴィクトリー。
ETUは、数年ぶりに東京ダービーを制することができるのか。
13巻は、巻末の予告にヒントがありますが、東京ダービーの決着以外にも、私たちに様々な感情を感情を与えてくれるものになっていると思います。単行本派の方は、楽しみに待っていてください。一時期に比べれば勢いが落ちてきた感も否定はしないですが、次回は(ある部分では)大いに期待してもらっていいと思ってます。
■ 掲載
#108~#117
週刊モーニング2009年17号~27号
東京ーダービー後半、持田投入、いきなりその力を見せ付けるところまで収録
タグ : GIANT-KILLING
『GIANT KILLING 11』 / ツジトモ (原案・取材協力:綱本将也)
2009.07.25 14:14
※ネタバレ要素が含まれていますのでご注意ください
※各回のもっと細かい感想を読みたい方は、連載を読んだ当時に書いている、今週の『GIANT KILLING』の過去ログをご覧になってください(連載を読んだ当時に書いているものなので、多少間違いなどには目を瞑っていただけるとありがたいです)。
リーグ戦第13節、アウェイでの川崎フロンティア戦。
王子、村越と主力2人を欠く布陣を強いられているETUは前半、椿を囮に使う作戦がはまり、試合を優位に進めていくものの、カン・チャンスのゴールで0-1とリードを許している状況。
後半に入り、ETUの作戦が相手にバレてしまい、試合の流れも川崎が支配し始めてきた中で、ETUはどんな戦いを見せていくのでしょうか・・・といったところで、11巻は始まっていきます。
11巻は、川崎戦の決着、14~16節の状況を間に挟んで、リーグ前半戦の折り返しとなる17節東京ヴィクトリー戦のキックオフ直前の話まで収録されています。
※
王子と村越がいない状況で、 達海は、先日のカレーパーティーでよく働いてくれた選手、 すなわち、クラブへの想いの強さでメンバーを選んでいました。
その結果、スタメンに抜擢されたのが、これまで出場機会の限られていた、 石神、堀田、堺という年長組の選手たち。
そんな彼らが期待に応え、同点ゴールを奪ってくれました!
開幕スタメンでありながらも、すぐさまポジションを奪われ、 これまで作中でもまともな出番すらなかった石神。
飄々とした軽い言動が持ち味(?)の石神ですが、 ディフェンスラインを上げるように声をかけたり(その理由がらしくて笑えます)、 同点ゴールの場面では、サイドの裏のスペースを突いてオーバラップを仕掛け、 ゴールにつながるクロスを上げるなどの活躍を見せてくれます。 ゴールの起点となった堀田のパスを引き出したのも、石神が堀田に声を掛けたからこそのこと。
それから、椿の台頭により、ベンチに居る時間が増えることになってしまった堀田。
決して、実力的に劣っているわけではないですが、いつしか、自分の限界を決めつけ無難なプレーに終始する選手に。 しかし、ポジションを奪われた椿と一緒にピッチに立ちプレーしたことによって刺激を受けた堀田は、 石神の後押しされる言葉もあり、チャレンジする縦パスを送るようになっていく。 同点ゴールの場面では、右サイドの裏をオーバーラップしていく石神に、 起点となる40mぐらいのロングパスを見事に通します。
そして、常にコンディショニングに気を配り、 最もプロフェッショナルな姿勢を見せていた選手でしたが、FWのポジション争いでは3番手という立場で、 出場機会が多いとは言えなかった堺。
その堺は、同点ゴールを決めるという大仕事をやってくれます!
石神のクロスから世良がヘッドを落としたところに走り込み、 飛び出してきた川崎のGK星野の動きを冷静に見極め、ちょこっとボールを右足のアウトサイドでずらし、かわして、がら空きのゴールに落ち着いて流し込みゴールを決める。渋くてカッコいい堺らしいゴールでした。
連載で読んだときも泣きましたけど、
単行本で読み直したときも、この瞬間はやっぱり泣きました。
6巻で堺の言動を見たときから、ずっと活躍してくれることを願っていましたし、この瞬間をずっと待っていましたからね・・・。とにかく、心の底から溢れ出してくるものを止めることはできませんでした。
丹波がゴールに絡んでなかったことがちょっとだけ残念な気もしますが (まぁ、タンさんは彼らより出番多いからね)、 この試合スタメンに抜擢された年長組3人がそれぞれ特徴を活かしてゴールを奪ってくれたことは本当最高でしたね。
椿や赤崎といった、若くて才能のある選手が未知なる可能性を見ていくというのは、 ものすごくワクワクさせてくれるものがあります。
けど、そればかりじゃなくて・・・
「カッコイイとこ見せてくれよ お前らが活躍するってことは……
若手が伸びるのと同じくらい… クラブにとっての希望なんだ」
と、達海も言ってますが、その機会は少ないとしても、 生え抜きのベテラン選手が活躍を見せてくれるというのも、クラブを応援している立場からすれば、それはそれで大きな喜びなんですよ!
そういうところにも、スポットを当てて描いてくれることを嬉しく思いました。
クラブを大切にする選手を“信じる”というのは、監督マンガという視点からすれば、 説得力も何もあったものではないかもしれないですが(現に試合には負けてしまってますしね)、 “クラブで戦う!”という理念の下に行動する、そんな達海を私は支持したいです。
10巻の感想でも少し書きましたが、達海が現役時代ETUでプレーして、サポーターから多くのものをもらってい“クラブで戦う!”ということの意味を身を持って体感しているからこそできることなのかもしれないですね。
現実は、なかなか理想通りにはいかなけれど、こういうのは、とても素敵なことだと私は思いますね。
※
一方で、村越が出場停止のため、キャプテンマークを巻いている椿。
前半は、達海の作戦通り、囮として動いていましたが、後半作戦が相手にばれてしまい、マッチアップしている八谷が本来の動きを取り戻したのをきっかけに、自分の存在を自問する椿。
今までの彼だったら、そこで下を向いたままだったかもしれないけれど・・・
自らの意志でプレーを変え、仕掛けの動きを増やしていくことよって、川崎の傾いた試合の流れを徐々に取り戻していくという、椿のメンタル面でのステップアップを見ることができたのが良かったですね!
試合の流れ的には、いい方向に傾いていきましたが、終了間際に川崎のレアンドロに決められ、結局試合には敗れてしまいます。
まぁ、フットボールなんてそんなもんさー。
悔しいけれど、内容が良くても勝てるとは限らない、それがフットボールの真理というもの。
ですが、負けてしまったとはいえ、得たものも多いです。
椿のメンタル的な成長もそうだし、年長組もさらなる伸びしろを見せてくれたことで、チーム全体の底上げにもなりました。チームとして、ひとつの成長のステップを踏むことができたという点で、大きな意味のある川崎戦となりました。
そのことは、その後の試合で、選手たち自身が証明しています。
いや、本当の意味で証明されるのは、その先の東京ダービーってことになるのでしょうが。
※
毎回の恒例になっている、初版限定ステッカーは、“夏木アクロバティックステッカー”です。
同じく巻頭部分には、『突撃!! となりの松原さん』という、子供が5人と暮す松原家の日常話を描いた5コママンガが掲載されています。「男は…そうある“べき”だ」という松ちゃんの言葉には、ある種の深さが感じられて笑ってしまいました。
おまけカットも合わせて要チェックです。
個人的には、ペペの似顔絵のやつが一番好きです。
※
続く12巻では、まるまる東京ダービーが描かれていきます。
なかなか思うような結果が残せず苦しんでいる王者・東京ヴィクトリーに対し、川崎戦以降いい流れで来ているETU。今回は、アウェイでの対戦ということで、圧倒的な緑色のサポーターたちの前でどんな戦いを見せてくれるのか。
単行本派の方は、巻末の次回予告を眺めながら(いつもながら、この手作り感がいいなぁ)、12巻は講談社のコミック発売予定リストを見る限りでは8月・9月のではなく、いつも通り10月になると思われますが、楽しみに待っていてください!
■ 掲載
#98~#107
週刊モーニング2009年7号~16号
東京ダービー、選手入場シーンまで収録
タグ : GIANT-KILLING
『GIANT KILLING 10』 / ツジトモ (原案・取材協力:綱本将也)
2009.04.25 21:26
Amazonおすすめ度:

※ネタバレとなり得る要素を含んでいる可能性がありますのでご注意ください
(単行本では)今回より綱本先生のクレジット表記が変更になっている、『GIANT KILLING』10巻の感想です。
10巻では、リーグ戦第12節のジェム千葉戦の続き(と言ってもジェム戦は少しだけしか描かれていませんが)、カレーパーティーの話を挟んで、リーグ戦第13節の川崎フロンティア戦が始まっていきます。
※
10巻のほとんどは(10話中8話)川崎戦となっていますが、ストーリーの山場は11巻のほうにあるので、川崎戦については今回は簡単に触れる程度にしておきます。
選手の才能を見つけ伸ばすのが大好きなネルソン監督率いる川崎フロンティア。
ネルソンによって力を伸ばした選手たちは、"ネルソンのために!"の想いでまとまり、若手主体のチーム構成というのもあり勢いに乗せると怖い相手。
一方でETUは、キャプテン・村越がイエローカードの累積警告で出場停止(リアルJリーグだと、累積のイエローカードが通算4枚になると次の試合に出場できないというルールがあります)、それに加え、王子が足の張りを訴え欠場(・・・のわりに、バカンスを計画してたりとかね?w)という状況。
そんなベストメンバーが組めない状況で達海は、椿にゲームをキャプテンを任せたり、これまでとメンバー構成を少し変え、これまで出番の少なかった、石神、堀田、堺といった年長組の選手をスタメンで起用します。
これらによって、ETUはどんな戦いぶりを見せてくれるのでしょうか?
というのが、川崎戦でのテーマになっていきます。
今回は、とりあえず川崎の中心選手で、椿とマッチアップすることになる八谷渡の話が良かったです。
暑苦しく椿に絡んできて、ザコキャラオーラを放っているように見える(それはそれで楽しませてくれました)八谷ですが、彼が自分の力を十分に発揮できないまま複数のクラブを渡り歩いていたという苦労人ぶりや、ネルソンが八谷をボランチにコンバートする時にかけた言葉・・・
「君とは運命共同体なのだわ」
には、胸にぐっとくるものがありました。
選手の才能を伸ばすことに心血を注ぐという、監督として達海やダルファーなどとは違う個性(哲学)を見せてくれるネルソンの存在も良かったです。
それと、今回スタメン起用された年長組の選手たちについては、11巻のほうで触れていきたいと思っていますが、開幕戦でスタメンでありながらも、いつの間にか若手の石浜にポジションを奪われてしまいた石神が見せるキャラクター。
ここから一気に評価を上げていくことになる、石神のまさに"飄々とした"という言葉が似合う活躍ぶりは必見で、注目しておいてほしいなと思います(笑
※
続いて、今回一番私を心震わせてくれたのが、カレーパーティーのエピソードです。
"選手だけでなく、ベンチ、フロント、サポーターがともに前を向く!!
クラブで戦う! それがフットボールだ!!"
選手も、フロントも、食堂のおばちゃんやジュニアのコーチまでをも巻き込み、地元のETUを愛する人々を招き、一緒に仲良くカレーを食べながら、コミュニケーションを深めお互いの結束力を高める。
これはクラブの監督が主導で行うことではないよなー・・・なんてことを思いつつも(笑)、こういうクラブとサポの素敵な関係は、読んでいて心が震えました。
特に、実際に自分の応援するクラブを持っている人なんかは、そういう思いを強く感じたのではないでしょうか(これを読んだ当時、私の応援していたクラブも、それぞれがバラバラな状態だったので、これエピソードを読んで、いろいろ感じるものがあったんですよね・・・まぁ、そんな話はどうでもいいですね・苦笑)。
達海も元々はETUでプレーしていた選手です。
達海の、"クラブで戦う!"といった思想の根底には、現役時代、彼自身がスタジアムに駆けつけた人々から多くのパワーもらっていたから・・・といった要素もきっとあったんだと思います。
それがこういう形で還元されて(と言っても、チームが素晴らしいフットボールで勝利してくれるのが最高だと思いますけどね)、サポーターもまたETUを一生懸命応援しにスタジアムに駆けつけ選手たちに戦う勇気を与える・・・
それらがお互いに作用に循環していくことによって、クラブの歴史が紡がれていく・・・
私が書いてることは、現実的に見れば、幻想的な理想論でしかないかもしれないですが、(今はサポ同士での対立があったりもしますけど)ETUはそんな素敵なサッカークラブであり続けてほしいなぁと思います。
ジャイキリは、達海猛という監督が主人公で、サッカー監督にスポットが当てられた作品ではありますが・・・、ETUというサッカークラブを軸に、それらを取り巻くあらゆる人々の織り成す人間ドラマも非常で魅力的であるということを再認識させてくれるエピソードでした。
やっぱり、私がジャイキリが大好きだな~と思いますね(笑
※
あと、もうひとつ書いておきたいのが、最近特に異常なまでに私を楽しませてくれる、黒田一樹という男について。いやぁ、最近のクロの面白さは神がかっとる!
カレーパーティーでは、達海に意のままに操られビラ配りに行くことになるクロ、しかも、一緒に行った相棒の杉江は、女子高生にサインを求められさらにショックを受けるクロ。
川崎戦試合前のロッカールームでは、椿のゲームキャプテンに異を唱え、さりげに自分をキャプテンにとアピールしてみるものの、達海から"陰キャプテン"という微妙な役職を与えられ、私たちの笑いを誘ってくれるクロ。
・・・さらには、テンパりまくりの椿の代わりに、円陣を仕切ろうとするも、年上選手から「陰キャプ」と茶化されるクロ。
また、おまけカットでもネタにされてたりもするし・・・
クロは、本当みんなに愛されてますよね!
時々やらかしてしまうことはありますけど、プレーヤーとしても心強いですし、私もそんなクロが好きですよ。
まぁ、サッカーとは全然関係ないところでの話ですが、こういうキャラクター同士のやり取りもジャイキリの楽しさのひとつだと思います。
次は、どんな風に私たちを楽しませてくれるでしょうかね?(笑
※
毎回恒例の初版限定ステッカーについて。
やはり、週刊モーニング2009年19号で使用された表紙にあった、達海のフラッグでした。
冒頭部分には、ETUのこれまでの試合結果が掲載されています。
ですが、18ページの電光掲示板の結果と照らし合わせると、計算が合ってなかったり・・・。
文中でも触れてますが、おまけカットはいつも通り面白かったです。
陰キャプがやっぱりツボでした(笑
王子のも面白かったですけどね・・・そうやって、またファンが多国籍化していくのねと。
あと、さりげに表紙の赤崎の代表ユニがいいなと思いました。
※
さて、続く11巻についてですが・・・
1点をリードされたまま後半を迎えたETU。
椿をゲームキャプテンに指名した意図、年長組をスタメン起用した狙いなどが明らかにされていきますが・・・
「俺わかってるからさ
お前らがこんなもんじゃないってことぐらい」
果たして、ETUはここから逆転勝利を収めることができるのでしょうか?
先の展開は知っていますが、単行本でまた読み返すのを楽しみにしてます。
単行本出せるだけのストックはあるので、2ヵ月後ぐらいに出してもらえると嬉しいなぁ(笑
■ 収録
#88~#97
週刊モーニング2008年47号~2009年6号
リーグ戦第13節vs川崎フロンティア、後半開始直後まで収録
タグ : GIANT-KILLING
『GIANT KILLING 9』 / 原作:綱本将也 漫画:ツジトモ
2009.01.24 22:48
※ネタバレ要素が多少ありますのでご注意ください
7巻から続いていた大阪ガンナーズ戦がいよいよ決着!
そして、舞台は椿の故郷に・・・?!
連載が始まってから2年が経過し、某Jクラブとコラボレーションしたりなど、着実にその知名度を上げ、今一番勢いのあるサッカーマンガのひとつと言える、『GIAINT KILLING』9巻の感想です。
最初に、簡単に9巻の主な見どころを大きく2つに分けますと・・・
前半部分は7巻から続いている大阪ガンナーズ戦のクライマックス。
達海の仕掛けた作戦の全貌が見え始め、まずは1点を返したETU。
ここからさらに勢いを加速させ、逆転勝利を収めることができるのか?
そして、後半部分は、今季からETUを追いかけ始めた、フリーライターの藤澤さんが、椿大介のサッカーの原点を探るため、椿の故郷を訪問する、"藤澤桂のズッコケ大冒険編"(←単行本には書かれてないですが、モーニングの連載にはこのようなサブタイトルが付けられていましたw)となっています。
あともうひとつ、ETU内を駆け巡るビッグニュースについても、最後に触れたいと思います。
※
まずは、大阪ガンナーズ戦のクライマックス。
やはり、達海が仕掛けたETUの戦い方をより楽しむためには、9巻を読む前に、7~8巻を読んで試合の流れを把握しながらのほうがベターだと思います。
今回の大阪戦で私が一番面白いと思ったのは、達海が大阪の監督であるダルファーに矛先を向け作戦を立てていたということですね。監督に対して仕掛ける心理戦。
王子が前半から微妙なところにパスを送り続けていたのは、単に平賀のスタミナを消耗させ、ETU側から見て中盤左サイドを制圧し、逆襲の足がかりを作っていくため・・・というばかりでなく、平賀というチームのキャプテンであり大黒柱の代えの利かない選手に対してターゲットを定めることなどによって、ダルファーの采配の迷いを誘うところにもあったということ。
自分の哲学を貫くことを美学とするダルファーは、運動量が極端に落ちているにもかかわらず、平賀を交代させることを躊躇し悩んでしまうのですが・・・
この迷いが、皮肉にも"勝負のあや"となってしまうところが実に面白かったです。
椿に突破を許した平賀が思わずファールをしてしまったのを機に(誰が見てももう交代させなきゃと考えざるを得ないタイミングで)、ダルファーはようやく平賀を代える決断をするのですが、時すでに遅し・・・。
そのファールから得たフリーキックからETUは同点ゴール!
(少し話はそれますが、このゴールを決めたのが杉江で、前半窪田にいいようにやられてしまっていた名誉挽回となったところが、また熱い気持ちにさせてくれましたね!)
そして完全に試合の流れは、ETUのものになっていく・・・。
実際にも、流れの悪いほうのチームが、その流れを断ち切るために、選手交代を試みようとするも、交代選手が入る前に失点なんて光景は見られますし、直接のピッチの中の話ではないですが、これもサッカーというスポーツの面白さのひとつを描いたものだと思います。
あと、大阪戦は何と言っても世良ですね!
「磨いて輝かないものはない」
体格面では劣っているかもしれないけれど、相手DFのクリアを恐れずに、頭ごとゴールに向かって突っ込んでいった世良のシーンは、ツジトモ先生の描き方も含めて最高でした。
このあたりをどう説明していいのか分からないのですが、とにかく、ETUサポ感覚で感情移入して熱狂させてしまう何かがジャイキリにはあるんですよね。理屈じゃない何かが(笑
それは私が、特定のサッカークラブを応援しているからという影響も少なからずあるとは思っているのですが、"ジャイキリワールドの人々と同等の感覚を共有して作品を読んでいける"この感覚が本当たまらない。
この感覚を味わえることが、私にとっての、ジャイキリが最高である一番の理由なんだと思ってます。
(もちろん、他にも語り尽くせないほどの魅力がいっぱいありますよ!)
正直言うと、連載で読んでいた頃は、大阪戦はあれもこれも詰め込みすぎで、テンポが悪いなぁと感じていたところもあったのですが、単行本でまとめて読み返す分には、自分が思っていたほどでもなく、これはこれで良かったのかなと思います。
最後は、きっちりと笑いを取って締めてくれましたし(笑)、ひとりのサッカー好きとしても、ETUサポ的立場としても、しっかりと楽しませていただきました。
※
続いて、その後に描かれているのが、大阪戦を観て、核としてチームを引っ張って行ってくれる選手として椿に注目したフリーライターの藤沢さんが、椿のサッカーの原点を求めて、椿の故郷を訪問するお話。
ここでは、椿がETUに加入するまでの経緯が描かれています。
普通の選手とはちょっと違う、椿がサッカーを始めたきっかけ、プロサッカー選手を目指そうとした理由など、たくさんの優しさが詰まった心温まる彼らしいエピソードは、大阪戦とはまた違った意味で必見です。
また、このエピソードを描いた意味を、今後の椿の成長の過程の中でどのように絡めていくのか。 そのあたりも興味深く見守っていきたいところですね。
※
あとは、赤崎が五輪代表に召集される話や(代表での赤崎については、10巻でちょこっと描かれます)、累積警告での出場停止となってしまう黒田など、プロサッカークラブを題材にするサッカーマンガとして、起こりえるネタもしっかりと盛り込んでいるのがまた楽しいところ。
このあたりのやり取りを描いた#87は、上手くサッカーネタを笑いに昇華できていて、私が好きなところのひとつです。ここの部分の話の流れは秀逸でした。
サポ的視点で見え、赤崎の五輪代表招集は素直に喜ばしく思いながら読んでいましたし、今後"代表とクラブ"といったテーマをジャイキリではどのように描いていくのか、このあたりも興味を持って見ていきたいですね。また、代表でチームを離れる赤崎と、累積警告で黒田が出場できない、リーグ戦第12節のジェムユナイテッド千葉戦、代わりに出場した、若い宮野と亀井が本来のパフォーマンスが発揮できず、ジェムの監督がリーグ戦の長丁場を戦い抜いていくことの難しさを暗示している場面もまた良かったです(ジェムの監督さんはできれば、もうちょっと見たかったな~)。
まだまだリーグは中盤戦。
これから、終盤にかけて、いろいろな仕掛けを用意されているんだろうなぁと、期待感を抱かせてくれるものでした。
その他諸々、ひとつひとつ細かいところまで語りたいところではありますが、語りたいところがありすぎてほんっとキリがなくなってしまうので、あとは、毎週の連載の感想を書いている今週の『GIANT KILLING』の過去ログをたどって読んでいただければと思います。
9巻は、サッカー部分も人間ドラマの部分も両方バランスよく収録されていて、時には温かな気持ちになりつつも、いつもながら面白楽しく読ませていただきました。
やっぱり最高だよジャイキリは!
結局、結論としてはこうなりますね(笑
※
ひと通り、本編の話が済んだところで、毎度おなじみ初版限定のステッカーのお話を。
やっぱり、これは10巻でやるべきものではなかったのか?
という疑問を感じずにはいられないのですが(それとも、10巻はもっとゴージャスになるとでも?w)、このステッカー付きの単行本が欲しい方は、早めに購入しておきましょう!
あと、王子関連で言えば、巻頭のほうにある、おまけマンガが面白かったですね。 ・・・というか、なぜゆえ、王子はそこまでサインを拒むのか、その理由が知りたい(笑
※
さて、続く10巻は、講談社の3月のコミック発売リストには掲載されていないので4月発売が有力視されますが、単行本派の方は、いつもながらに秀逸な出来の巻末の予告を眺めながら、発売される時を楽しみに待っていてください。
次回も、とても素敵なエピソードを見ることができるはずですから。
■ 収録
#78~#87
週刊モーニング2008年36・37合併号~46号
リーグ戦第12節、ジェムユナイテッド千葉戦まで収録
タグ : GIANT-KILLING