『未来のフットボール』 / 大和屋エコ
2010.03.22 23:24
※ネタバレとなりうる要素を含んでますのでご注意ください
週刊少年サンデーにて、フットボールサスペンス『T.R.A.P』の連載をスタートさせた大和屋エコ先生。その連載開始に合わせる形で単行本化された大和屋先生の前作、『未来のフットボール』の単行本を読んだ感想です。
※
主人公の名前は、冬堂未来(とうどう みらい)。
未来は高校卒業後、アンダルシアFCというスペイン2部のクラブでプレーしていましたが、これといった結果が残せず3ヵ月後にはリザーブチームに降格。
未来はイングランドのダーラムというクラブと対戦するため、船旅で遠征中でしたが、その途中で船火事に遭ってしまいます。チームメイトからは、海に飛び込むよう言われますが、泳ぐことが苦手で躊躇してしまう未来。
そんな万事休すの未来は、英語を話す謎の男に手を引かれ、結局海へ飛び込むことになりますが・・・
気が付くと未来は、とある海岸まで流れ着いていました。
その場所は、遠征地でもあるイングランドのダーラムだった・・・まではよかったのですが、その時代はなんと1887年と120年以上も前の世界。
あまりに理解しがたい状況に、取り乱し、途方にくれる未来でしたが・・・
「サッカーから離れちゃいけない。
そうすれば… オレのいた世界と繋がっていられる気がする。」
自分を助けてくれた120年前のダーラムFCのメンバーの少年・エディたちの願いもあり、未来は翌年から始まるプロリーグ入りを目指すダーラムFCのメンバーとして120年前のピッチに立つ決意をします。
・・・といった感じで、この『未来のフットボール』の物語は始まっていきます。
※
この作品は、純粋なサッカーマンガというよりは、帯のコピーにもある通り“SFサッカーストーリー”といった色合いの強いものに仕上がっています。
その点について、作者の大和屋エコ先生の言葉を借りれば・・・
「この物語は、単にサッカーをスポーツとして描くより、
何か「プラスアルファ」して面白いことができないか…
では、タイムトリップ要素を加えたらどうなるか…
ならば時代はプロサッカー黎明期に…
というように、泥縄式に(笑)生まれた物語です。」
とのこと。
その言葉の通り、この作品の見どころは、サッカー描写ではなく(この点について後ほど書きます)、冬堂未来とエディ(と、周辺のダーラムの人々)120年の時代を超えサッカーを通じて紡がれていく友情物語にあります。
SFサッカーの設定として細かいところを見ていくとツッコみどころもあったりするのですが、そのあたりは目を瞑って、純粋にサッカーを通じて時代を超えた友情物語として見ていく分には、絵柄と作品の世界観が非常にマッチし丁寧に描き物語を読ませてくれるもので、私はなかなかの良作ではないかと思っています。
トップからリザーブチームに降格させられてしまった主人公が、120年前の世界にタイムトリップ。そこでエディたちと出会ったことによって、これまでの未来に一番欠けていたものに気付き、大切なものを手に入れていく・・・
それは、仲間を信じること・・・
自分を120年前の世界に連れてきたリチャードという人物を見つけ、元の時代に戻す約束を取り付けた未来でしたが、年老いたリチャードは勝利すればダーラムのプロリーグ入りが決まる試合中の時間に、命が尽きることを知らされます。
すなわちリチャードの命が尽きるまでに元の世界に戻られなければ帰る術を失ってしまう・・・けど、もしダーラムがプロリーグ入りできなければ、雇い主にタンカを切ってまで自分をダーラムに受け入れてくれたエディたちが働いている炭鉱をクビされてしまう。
そこで未来は、前半のうちに3点差をつけ、勝利への十分なお膳立てをしてから、この時代から去る決意をするのですが・・・、得意のテクニックで単独突破しか仕掛けてこない未来の動きは相手に読まれ、突破はことごとく潰されてしまいます。
「オレが…… 決めるんだ!! オレが――」
なんとしてでもダーラムを勝たせたいと懸命にプレーする未来でしたが、思うほどに、突破をしかけようとするほどにゴールは遠く、とうとう1点も入れられないまま、前半を終えてしまいます。
そんな未来に対して激怒したのがエディ。
「お前の故郷ではフットボールを… 一人でやるのかよォ!?」
自分たちにパスを出さず、一人でサッカーをし続ける未来のことを、思わず殴ってしまうエディ。
素性の知れない異国人である自分を信頼してくれたダーラムの人たちに対し、お世話になったお礼に彼らを“勝たせてやろう”と、チームワークのことを考えず、少々傲慢に己を過信した強引な突破をはかろうとしていた自身の愚かさ知った未来。
ようやく大切なことに気付いた未来は、リチャードの命が尽き、もう元の時代に戻る術がないと知りながらも、ダーラムのために後半のピッチへと立つ・・・
その後、どんな結末が待ち受けているのか、未読の方は是非ご自身で読んでいただきたいのですが、未来とエディの時代を超えた友情物語、過去の世界で大切なものを手に入れる未来の描写というのは、作品の世界観をすんなりと受け入れられるのなら、読んでいてきっと涙してしまうと思います。
「仲間を信じることで―― 仲間もオレを信頼してくれる。
やってることはお前らの時代と変わらないんだけどな。
当たり前か。
オレたちの立っている場所は同じなんだから――
たとえ120年後の未来でも。」
要は、未来とエディ、たとえ生きる時代は違っていても、サッカーによってつながっている・・・とまとめられたラストの部分も私は好きだなぁ。
そしてそして、この『未来のフットボール』の単行本には、描き下ろしのアフターストーリーが収録されていて、ひとつはエディSIDE、もうひとつは未来SIDEの2つがあります。
『未来のフットボール』という作品全体で見た場合、このアフターストーリーを読んでこそ、完結まで読んだと言えるでしょう。
内容については、あえて伏せておきますが、話としては想像のつくベタなところではあると思うんですけど、これがまた・・・これ自分で書くのは結構恥ずかしいんですがボロボロと泣けてしまいました。
もし、サンデー超やクラブサンデーなどで読んで、この作品が気に入っているのなら、“絶対にこのアフターストーリは読んでおくべきだ!”と、強く主張しておきます。きっと、私の同じ反応をするはずです。
※
ここからは、『未来のフットボール』をサッカーマンガとしての視点から読んだ感想を書いていこうと思います。
作品の第1話では、120年前の世界にタイムトリップした未来が、マルセイユ・ルーレットなど現在の技を駆使して大活躍を見せていきます。
このオフサイドのルールも現在と違い、キック&ラッシュの概念しかなかったであろう、プロリーグが発足しようかといった時代のイングランドを舞台に現代サッカーのテクニックを持ち込んでいくといった設定、発想がすごく面白く、1話を読んだ当時、ここからどんな風に世界が広がっていくんだろうという強い期待感を抱いていました。
・・・ですが、残念なことに、元から物語は単行本1巻分構想のもので、サッカー方面に話が広がっていくことはありませんでした(最終話で、この時代にゾーンディフェンスを持ち込んではいましたけどね)。
2話で19世紀の時代に21世紀のテクニックを持ち込んだのは、未来が一番最初ではなかったという話が出てきた時点で、すでに可能性は潰えてしまっていたのですが、この設定を上手く突き詰めていけば、サッカーマンガ史上最高レベルの一大スペクタクル作品になれるかもしれないとすら思っていただけに、あー、なんてもったいないんだーというのを強く感じました。
サッカー方面に話を広げていくためには、サッカーに関しての知識、特に歴史関係に協力者の存在が必要不可欠かと思いますが・・・
もし、19世紀の世界に21世紀の知識を持ち込んだら、現在サッカーはどのように発展していったんだろう?
という、パラレルワールドを描いたサッカーマンガには、私自身非常に興味を抱いているので、設定が駄々被りしたっていいじゃない、だから、誰かそんなサッカーマンガを描いてくれーと思ってしまいますね。
大和屋先生の描く世界観からは、最高傑作にできるだけの素地が十分感じられただけに、ちょっと未練がましい感情もあり残念に思いますが、現在大和屋先生は、フットボールサスペンス(やっぱり、そういった方向なんだなという)『T.R.A.P』の連載が始まったことですし、今後はそちらの方を応援したいと思います。
1話で未来がタッチライン際をドリブルしていた時、あえてタッチラインの外側にまたいで相手を惑わしてかわしていくシーンなんかには、私的にセンスを感じてたんだけどなー・・・(ぼそ
※
・・・ということで、サッカー描写として面白い場面もあるけれど、物語の本質としては、サッカーを通じ時代を超えた友情物語で、後者として読んでいくには、秀逸な出来の作品ではないかというのが私の見方です(SFとしてみると細かな設定にアラがあるかもしれないですが)。
作品の持っていた可能性を考えると、惜しすぎる点があることを否定しないけど、個人的は結構好きですし、サッカー好き以外の人にもお勧めしやすいものなので、もし興味があれば、この記事を書いている時点では1話の試し読みができますし、是非ともチェックしてみていただければなと思います。
(参考リンク:未来のフットボール(クラブサンデー内詳細ページ))
■ 収録
第1章~最終章
週刊少年サンデー超増刊2009年APL.号~JUL.号
描き下ろしのアフターストーリーも含め完結まで収録
タグ : 未来のフットボール
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